読書感想:魔法少女ダービー

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 さて、昨今の世の流行の一つは、競走馬を擬人化したキャラ達によるダービーなゲームである、というのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。・・・では、画面の前の読者の皆様は「ダービー」という言葉に込められた本当の意味はご存じであろうか? この作品のあらすじからすれば、「レース」であってもいいのかもしれない。だがしかし、「ダービー」である。それは一体なぜなのか?

 

 

その答えについては今から触れていこうと思うが、先にお断りしておきたいことがある。今巻の感想についてであるが、何処を触れても致命的なネタバレになる気がするので、かなりふわっとしたものになるかもしれぬ事をお許し願いたい。

 

物語の始まりはいつも唐突に。とある高校の映画研究会に所属する、競馬好きという以外には特に特徴もない、無気力な少年、月人(表紙左下)。彼は最近、先日ふとしたきっかけで助けたカナリアにストーカーされる事、そしてカナリアが謎のアドバイスをしてくると言う妙な現象に悩まされていた。

 

 そんなある日、カナリアの助言に従い級友を学区のプールに突き落とすと言う謎の行動の後。月人は一人の少女と出逢う。その名はホノカ(表紙右)。時を駆ける能力を持つ魔法少女であり、月人と、彼と犬猿の仲である少女、咲希との間に生まれた娘である。

 

いきなりの事実に戸惑いながらも、何とか受け入れようとする矢先、異なる未来から出現する新たな娘、その名はノゾミ(表紙左上)。別の未来からやってきた娘であり、ホノカと同じく魔法少女である。

 

今ここに、彼女達が代理で繰り広げる、ヒロインレースが幕を開ける、筈だった。そうなる筈だった。

 

 しかし、画面の前の読者の皆様の中で土橋真二郎という作家の作品の特性をご存じの読者様がおられるのなら、こうは思われなかったであろうか。・・・かの先生の作品、果たしてそんな優しい世界が広がっているのだろうか、と。

 

「つまりこれはレース。未来への道を決定づける戦い」

 

その予感は正解である。「ダービー」という言葉に込められた真の意味が、そんな甘い物語を齎す訳が無い。それは文字通りの死闘、命がけのレース。

 

未来を賭けてぶつかり合い、未来と今が交錯し。そして月人の無自覚な行いが魔法少女達を増殖させる中、未来を導くために何かを託し、何かを願う。

 

魔法と真実、嘘が交錯する中、明かされるのは未来を脅かそうとする未来の敵、「機構」が仕掛けた恐ろしき計画。それは禁忌をこれでもかと犯す、全てを集約させるための計画。

 

「そして約束する。・・・・・・次は失敗しないって」

 

 その果て、「姉妹」達の願いを背負い、「彼女」は選ぶ。そしてもう一度、全ては始まる。歯車が回ってしまった、再びの世界で。

 

この作品、一体何と呼べばいい、何と言えばいい。この作品は王道であり、壮絶である。そして唯一無二であり、故に異端とも言える。

 

 だが、この作品の根底、そこに確かにあるのは「愛」。故にこの作品は、「愛」の物語と言えるのだ。

 

何処にもない、壮絶な「愛」を目撃してみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

魔法少女ダービー (電撃文庫) | 土橋 真二郎, 加川 壱互 |本 | 通販 | Amazon