読書感想:魔法史に載らない偉人 ~無益な研究だと魔法省を解雇されたため、新魔法の権利は独占だった~

 

 さて、この世界の歴史においては偉人と呼ばれる人たちが存在する、というのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。しかし、もしかしたら私達が今知っている偉人は何かの切欠で別の人になっていたかもしれないし、そもそも我々が知らぬだけで偉人にも劣らぬ成果を残した人達だっていたのかもしれない。つまりは歴史と言う物は、隠されているだけで我々の知らぬものがあったりするのである。

 

 

基幹魔法と呼ばれる、魔法の基礎となる十二の魔法により体系化された魔法を日々研究する「魔導師」と呼ばれる魔法使いたちが日々研究を重ねるとある異世界。この世界に於いては魔法に関するあれこれを司る公的機関、魔法省が認める「学位」というものが魔導師の価値を示す重要な要素であった。

 

「迎えに来た。今日からオレが父親だ」

 

 その世界で、優れた魔導士でありながら無学位と言うだけで冷遇される青年、アイン(表紙左)。彼はある日、自身の研究を続ける条件として、孤児院から魔法に関する問題を抱えた少女、シャノン(表紙右)を養子として引き取る。しかし、彼は新たに上司となった無能な男により解雇の鬱き目に遭ってしまったのである。

 

成果だけを寄越せと言われ、中指を突き立てる勢いで断り意気揚々と辞職しながらも。内心は打ちのめされ、これからの不安に揺れるアイン。しかし彼は今、一人ではない。始まりは打算で引き取った少女、シャノンがいる。不器用に触れあいを続け関わる中で。守るべき対象である彼女の、子どもであるが故の純真な心がアインを引っ張り、閃きを生んでいく。

 

 その閃きが生んだのは、「歯車大系」と言われる十三番目の新たな大系。誰にでも魔法が使えるようになる画期的なもの。それを市井にそのまま置いておく、という事はある訳もなく。今更ながらに彼の有用性を認めた魔法省とかつての上司が、その権利を奪おうと禁忌の兵器を始めとし様々な刺客を差し向ける。

 

「オマエが犯した罪から、逃げ切れると思うな」

 

だがそれは、アインにとっては何の障害にもならぬ。寧ろ娘であるシャノンに手を出した以上、倒すべき敵、殲滅あるのみである。彼を侮る刺客達に、歯車大系が生み出す圧倒的な力を見せつけ。降りかかる障害の悉くを彼は、圧倒的な強さで跳ね除けていく。

 

「魔力がない人間にだけ不自由があるなら、それは魔法技術の敗北だ」

 

そして彼の魔法は、歯車大系は。魔力が無い故に認められなかったかつての級友、キースの彼だけの魔法の形を見つけ出し。彼の研究が世に出る事によって、世界の常識はまた書き換えられるのである。

 

襲い来る敵は纏めて返り討ち、ほのぼのと家族の温かさを繰り広げながら爽快感で駆け抜けていくこの作品。正に圧倒的、だからこそ面白いのだ。

 

爽快感のある物語が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

魔法史に載らない偉人 ~無益な研究だと魔法省を解雇されたため、新魔法の権利は独占だった~ (電撃文庫) | 秋, にもし |本 | 通販 | Amazon