読書感想:錬奏技巧師見習いの備忘録

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様に一つ、問うてみよう。皆様にとって錬金術、と聞いて想起される作品は何であるか。やはり「鋼の錬金術師」を連想される読者様が多いのであろうか。等価交換の法則、という言葉で有名かもしれない錬金術。そんな摩訶不思議な術は現実の世界に於いても探求されてきて、何れも何の成果も齎さなかった。しかし、その術の試行中における様々な技術が科学技術の大きな発展の原動力になった、というのは歴史的な観点から見るお話である。

 

 

そんな前置きから大体お察しであられるかもしれないが、この作品においては「錬金術」というものは取り扱われている。

 

 しかし、その理由は富を得る為ではない。人類存続の為、という大きな理由の為である。

 

読者である我々の生きる時代から百と余年が経過した近未来。地球へと来訪し飛び去っていった「ヘルメス」と名付けられた一筋の彗星。

 

 しかしその彗星は、悪魔的な行いを地球へ対し働いてい居た。「ヘルメス」から放たれた謎の光により人類の遺伝子が変質し、人々から生殖機能が失われると言う未曾有の事態が発生し。人類は「錬金術」、その中の「人体創造」、ホムンクルスの生成と言う古の禁忌に手を伸ばし。錬奏技巧師と呼ばれる者達が、ホムンクルスに命を吹き込む。それがこの世界に於ける、現状である。

 

そんな世界の片隅、「スクール」と呼ばれる養成機関を卒業した錬奏技巧師見習の少年、鏡(表紙奥)。行方不明の兄の手掛かりを求める彼が出会ったのは、兄から託された謎の少女。かつて自分が亡くした幼馴染、櫻花によく似た少女、白雪(表紙手前)。訳も分からぬままに始まる同居生活。白雪の一挙手一投足に心奪われ、櫻花の面影を重ね。否応なく、鏡の心は揺れていく。

 

 しかし、彼の世界は平穏を許されなかった。未だ見習である彼は知らなかったのだ、何もかもを。

 

職場の上司となった女性、瑠璃子に導かれ訪れた、目には見えぬ魚が泳ぐアクアリウム。そこで目撃する、錬奏技巧という技術の正体。

 

更には謎の、突然の人々の意識の消失事件が巻き起こり。その裏に隠れていたのは、四元素会と呼ばれる全ての技術の始まりとなった四つの家、その一つの当主が願った事。取り戻したいと思うが故に、全世界を巻き込もうとした哀しき決意。

 

そして、鏡という存在の真実。白雪という少女の真実。

 

「僕が錬奏します。―――櫻花も―――世界も救う。これが僕の選んだ道です!」

 

 全ての真実を受け止め、世界の行く末を決める狭間に立ち。それでも、と欲深に全てを選び救う事を決意し。死力を尽くすその先に待っているのは、小さな奇跡。あの日願った、「夢の続き」。

 

届けたい心は届き、涙は彗星となり流れ去り。二人の時間がまた、白紙の頁を埋めていく。

 

感動的であり、読み終えた時に万感の思いに見舞われるであろうこの作品。

 

涙腺を直撃されてみたいと言う読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

錬奏技巧師見習いの備忘録 (講談社ラノベ文庫) | 三止 十夜, 藤実 なんな |本 | 通販 | Amazon