読書感想:通勤電車で会う女子高生に、なぜかなつかれて困っている

f:id:yuukimasiro:20210418230145j:plain

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。通勤、または通学に電車を使うという読者の方がおられたら、少しその車内の光景を思い出してみてほしい。その光景の中、きっと存在しているであろう他の客に、貴方は面識のある方はおられるであろうか。

 

電車の中での出会いは一期一会、そう言われるとそうかもしれない。だが、気付いていない、覚えていないだけで、もしかしたらいつも同じ電車に乗っている人もいるかもしれない。

 

 だが、その付き合いはお互いが最寄り駅につけば終わってしまう、短い時間。そんな時間の中で始まるのがこの作品なのである。

 

イベント会社勤務、二十七歳、無愛想で人付き合いが苦手だけど、苦手なだけで情には熱いサラリーマン、和人。

 

 後輩の面倒を見たり、嫌みな上司の小言を躱して聞き流したり。今までと同じ、何処か色あせたような日常。その日常は唐突に変わる、突然話しかけてきた一人の少女の手によって。

 

彼女の名前は結衣花(表紙)。和人といつも同じ電車で学校に通う、自分の殻の中で生きる平坦な感情の持ち主の少女である。

 

スマホを覗かれた事から始まった二人の、短い時間の何でもない関係。

 

「いいから騙されたと思って。・・・・・・ね?」

 

 だが、唐突に結衣花は和人の悩みへと切り込んできて、彼に唐突に助言を残す。半信半疑ながらも、その助言を元に後輩に接してみる和人。そこから全ては始まる、周り出すのだ。

 

今までは人づきあいが苦手だった、何にも興味を示さず一歩引き、傍観者でいるだけだった。

 

だが、彼女のアドバイスを元に行動して、その心は周りへと知られた。傍観者の皮は見透かされ、いつの間にか「当事者」へと変わっていく。

 

後輩である音水、女子大生vtuberの楓坂と新たな関係が芽生え、全てが好転したかと思えば、「当事者」となる事で、呼んできてしまった窮地がある。変化したことで呼び込んだ、妬みのような黒い感情だってある。

 

「こうして通勤電車で結衣花と話ができるだろ? 俺、結構この時間が好きなんだ」

 

 けれど、変わるのは良い事だ。そして、その変化を持ってきてくれた結衣花との何気ない時間。僅か五分の逢瀬が、いつも通りのこの瞬間が何よりも大切だからこそ。何にだって立ち向かえるし、大切なものを迷わず選べる力となるのだ。

 

何気ない時間と、名前のない関係。だけど、隣にいてくれると安心するしありがたい。そんな何気ない温かさと、独特の距離感が故に余分なものが介在しない爽やかさがあるのがこの作品だ。だからこそ、昨今の甘さを煮詰めたようなラブコメも勿論良い。けれど、爽やかでどこか甘酸っぱいこの作品のような甘さも、今の時代にはあってしかるべきなのだろう。

 

独特の爽やかさ、絶妙な距離感が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

通勤電車で会う女子高生に、なぜかなつかれて困っている (ファンタジア文庫) | 甘粕 冬夏, はくり |本 | 通販 | Amazon