読書感想:迷子の女の子を家まで届けたら、玄関から出て来たのは学年一の美少女でした

 

 

 さて、恋と言うのはいつでも急に始まるものである、と言うけれど。最近のラブコメと言うのは付き合うまでが爆速、と言う作品も多いかもしれない。じれったい、という作品は受け入れられないのか。無論、そんなことはない筈だ。私が思うに、昨今は打ち切りになるラインがかなり低いからこそ、じれったいという展開は裏を返せば鈍足という事であり。早さを求めるならば似つかわしくないという事なのかもしれない。

 

 

だがしかし、この作品は敢えてじれったい、という方向性に踏み切っている。ではどう楽しむべきか。それはきっと、いずれ付き合うと明言されているからこその甘さを楽しむべきなのだろう。

 

「なんでもいいんだよ? 黒田くんがしてほしいこと言ってくれれば」

 

 

特に特筆すべき長所もないごく普通の少年、雄星。 高校二年生の夏休み前の放課後、彼はコンビニの前で一人佇む少女、夏乃を保護し。彼女の言から何処から来たのか調べ、家まで送り届ければ、家から出てきたのは学年一の美少女、綾乃(表紙)。お礼として手作りのクッキーを振る舞われ、更には彼女から何かしてほしい事はないかと聞かれ。一先ず汚部屋である自分の一人暮らしの部屋を掃除して欲しいとお願いし。彼女の訪問を受け、始まる部屋の掃除。その中で幼稚園時代の初恋の相手から貰ったアイテムに綾乃が反応を見せたり、ラノベ執筆という彼の趣味がバレたりして。そんな自分を気にしない彼女が何故人気であるのかを感じ、高嶺の花らしさを感じたりして。

 

 そんな日々の中で、クラスの陰キャオタクなメイコとひょんな事から同士として関わる事となったり。バイト先の後輩である友梨奈に揶揄われたりして。何気ない日常の中、綾乃の高嶺の花であるはずの色々な表情が気になっていく。

 

何故か、友梨奈が自分の事を知っているという事に変わった様子を見せたり。人気者な彼女の、内面はごく普通な部分を相合傘の中で目撃したりして。

 

「前とは違って目を逸らさないで、私を見てくれる」

 

 

そして夏祭りに誘われ、ぐいぐい来る彼女と、その妹と花火を見上げて。彼の中に膨らむ、自分も何かを返したいと言う気持ち。それは確かに成長の第一歩。貰うだけではなく、自分からも。友梨奈とメイコにアドバイスを貰いながらも奔走し、きちんと自分で選んだプレゼントを彼女に渡す。

 

「私は、怖くて勇気が出ないもんなぁ・・・・・・」

 

しかしまだ彼は知らない。彼女の心の中、秘めた心残りがある事を。彼女にも何か、秘密がある事を。

 

実は不器用で臆病同士な二人が一歩ずつ頑張る、何気ない甘さがある今作品。じれったくとも確実に進むラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 迷子の女の子を家まで届けたら、玄関から出て来たのは学年一の美少女でした (ファンタジア文庫) : 楠木 のある, 古弥月: 本