読書感想:その商人の弟子、剣につき2

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前巻感想はこちら↓

読書感想:その商人の弟子、剣につき - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、今巻の感想を書き始める前に私は一つ、前置きをしなければならない。この作品は、どうやら今巻で読めなくなってしまうようである。だがしかし、変な所で切り取られるのではなく、きっちりと前巻で描かれずにいた所を描き切り、一つの作品として確かに完成させていると言う事を明言したい。

 

前巻で始まった、エドと魔王の剣、ティファンの師弟関係。師弟として、時に見守ったり、時にアドバイスをしたり。少しずつ商売の何たるかを覚えつつあるティファンは、酒のお祭りでにぎわう街で初めての商談へ挑む。

 

 普通であれば、それで済んだかもしれない。穏やかな日々が描かれたのかもしれない。だがしかし、お忘れではないだろうか。この作品はそう簡単には終わらない。何故ならば、魔族の影は何処にだってちらついているから。それはこの、祭りで賑わう街も例外ではなく。

 

精魂込めて作った酒も、更には自分の名前すらも。エドの旧知であった筈の職人は全てを奪われていた。その裏に蠢くは、魔族の大規模な魔法と思惑。果たして、その原因となっていたのは誰か。

 

「勝負しましょう、エド兄さん」

 

その一員となっていたのは、エドに勝利することを願う、妹弟子のエーテル。そして彼女と契約した、繁栄と虚心を司る魔法の使い手、ゼファーである。

 

ゼファーの魔法により改変される現実と引き裂かれる絆。常識が上書きされたエドティファンの前から去り、孤独となる彼女。

 

 だがしかし、ティファンは諦めなかった。決して折れなかった。エドの代わりに跡を継ぎ、強大な敵であるエーテルへと、商人として真っ向から勝負を挑んで見せた。それは何故か。それは、偉大なる師の背中を見て学んでいたから。どんな状況でも諦めず、誰かの幸せのために商売をできる彼のように、と願っていたから。

 

その姿に誰かが影響され、それが繋がりエドの心へと届き彼の心を目覚めさせ、虚栄を越えさせる力となる。それはちっぽけな人の意思が、確かに大きな悪意を乗り越えて見せた瞬間。

 

「この魔王の剣。敵を切ったり、串刺しにすること以外もできるところをおみせしよう。次はお主を儲けさせる案を生み出して見せる」

 

不慣れな師匠と未熟な弟子。だけどお互い足りないからこそ補い合える。共に成長していける。その旅路が、幸せである事を切に願う。

 

心温かくなるファンタジーが好きな読者の皆様、人の想いが巡るさまが好きな読者の皆様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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