読書感想:その商人の弟子、剣につき

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方はこの世界で一番強いものはなんであると思われるだろうか。この世界で一番強いのは愛か、それとも勇気か。もしや、それがあれば極論すれば何でも買えてしまうお金か。だがお金では例えば銃弾なんかは防げはしない。では一体、何が最強なのか。その答えはきっと、各自の心の中で違うのかもしれない。

 

勇者によって魔王が滅ぼされ、暫しの時間が経過したとある異世界。かの異世界で駆け出しの商人として生計を立てる青年、エドモンド(表紙左上)。

 

彼はある日、一人の女性と運命的な出会いを果たす。彼女の名はティファン(表紙中央)。かつて魔王が振るった魔剣だった女性である。

 

ティファンエドモンドへと一つの提案を持ち掛ける。その提案とは、自分を連れ出してほしいと言う事。それは何故か。その理由とは、もう二度と魔王が復活しないように封印したいと言う事。

 

何故、魔王を封印しなければならないのか。それは魔王が復活を続ける限り、勇者が生まれ、魔王を殺した勇者が抱えてしまったものの重さに壊れると言う、まるで血を吐きながら走り続けるかのような哀しい輪廻が繰り返されてきたのがこの世界だからである。

 

だからこそ、もう二度とそんな哀しい輪廻は繰り返させたくない。魔剣である筈のティファンは慈しみに溢れた目で願いを語り、その為にエドモンドの弟子として共に旅に出る。

 

そんな二人の旅の行く手を阻むのは、次々と現れる己の信念に殉じた強き者達。

 

ある時は凄腕の女傭兵が旅路を阻み。それを退けたかと思えば、生まれたての勇者と人の業欲をこれでもかと見てきた、傲慢な聖剣が道に立ち塞がる。

 

対するこちらは何も力を持たぬ商人と魔王の剣。・・・だが、果たして本当にそうなのであろうか? 本当に彼等は武器を持っていないと言い切れるのか。答えは否、勿論そんな事は無い。

 

「俺は商人だ。ここからは楽しい話をしよう。互いが儲かる話を」

 

ではエドモンドの武器とは何か。それは商人だからこそ、誰かにとって何が得かを見極める事が出来るからこその推理と機転。そして、今まで旅をする中で作ってきた多数のつながり。 何も持たぬ、だが何でも持っている。故にこそ、彼は強いのだ。

 

この世界はかくも残酷で、哀しき輪廻に救いは無くて。だが、こんな世界でも皆、自分の信念に殉じて生きている。だからこそ、この世界は面白いのだ。

 

時に鋭く切り合う頭脳戦が好きな読者様。何処か独特の優しさに溢れた作品が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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