読書感想:ジェノヴァの弟子 ~10秒しか戦えない魔術師、のちの『魔王』を育てる~

 

 さて、師匠と弟子、つまりは師弟というコンビで画面の前の読者の皆様が連想するのはどのコンビであろうか。ドモン・カッシュ東方不敗マスター・アジアというコンビを連想した私は多分半ば古のオタクでありガンダムオタクな訳であるが。それはともかく。師弟というのは下手をすれば普通のカップリングよりも距離が近かったりすることが多く、師弟の間での恋愛、というものが描かれる事もあるであろう。

 

 

さて、ではこの作品においてはどうなのか、という事であるが。この作品において描かれる師弟、弟子からは師匠に思いを寄せていても、師匠には忘れられぬ相手がおり。肝心なところで交わらぬ関係を描きつつ、ファンタジーで味付けしている作品なのである。

 

七柱の女神がとある剣士と共に、竜の支配から大陸を解放し、人類種族に魔石と言うものを齎しおよそ八千年。旧人類の王国連合がグロリア帝国と呼ばれる国となり、各地の竜を封印した後も、人々は魔石による文明を築いていた。

 

「もう、光なんてない」

 

そんな帝国には、かつて最強の名をほしいままにする一人の魔術師がいた。その名はヴァレン(表紙右)。「ジェノヴァ流」と呼ばれる魔術戦闘流派の正当後継者であったが、かつてとある事件で師匠と魔力、そして視力を失い。今は通いのメイドさんの世話を受けつつ笛を吹いて酒を飲んで。ただ色のない燃え尽きた日々を送っていた。

 

「僕を弟子にしてください!」

 

そんなある日、突然押しかけて来た少年、リアーズ(表紙左)。彼が携えていたのは、かつて師匠が愛用していた大剣。語られるのは師匠の生存の一報。折しもその時、街が魔物の群に襲われると言う出来事が発生し。あの日の熱が少しだけ灯ったのか、ヴァレンはリアーズと共に、街を守るために飛び出していく。

 

目撃するのは、たった三日くらいしか修行していないと言うのに強力な魔術を使えるリアーズの才能。解放するのは、自分だけの裏技。十秒だけかつてのように戦える力。

 

一先ず弟子入りを認める事にし、経験の絶対的不足による力不足なリアーズの面倒を見つつ。ヴァレンは師匠の情報を探し、その目撃情報を探し旅をする、リアーズと共に。

 

 

だけど盲目である彼は知らない。リアーズが実は彼に命を救われた者であり、本当はリア―チェという名の少女である事を。そして旅の先、見つけるのは師匠、だった人。そこに秘められていたのは師匠と言う存在の真実。本当に求めていたもの。そしてリア―チェに秘められていた真実。

 

「―――そんなもの、クソくらえだ」

 

差し出されるのは、全ての、弟子たちの命も含め全てを集めて齎された人類と言う種族を脱却する進化の力。だけど、彼はそれを否定する。そんなものはいらぬ、と。師匠の思惑を超え、自身の巣立ちの一歩を示して見せるのだ。

 

割と王道めなファンタジーであり、真っ直ぐに突き進むこの作品。まっすぐな作品が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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