読書感想:春夏秋冬代行者 暁の射手

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:春夏秋冬代行者 夏の舞 下 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻までを亜読まれている読者様であればこの作品における四季を司る「代行者」に課せられた悲しき宿命、というのはご理解頂けているであろう。無論、代行者となったからこそ出会えたものもあった、だが彼等は現人神であり最初から神様であった訳じゃない。そしてもともと人間であったのならば、代行者とならなければもっと違った「只人」としての人生もあったのかもしれない。

 

 

そんな事実に思いをはせる読者の皆様、既にお気づきであろう。この作品の世界においては、四季の移り変わりだけではなく昼夜の移り変わりも代行者が行っているという事を。彼等もまた、重い荷物を背負わされている現人神なのである。

 

 その片割れである、夜を司る者達、「黄昏の射手」である輝矢と守り人である慧剣については皆様、もうご存じであろう。では朝を司る者達、「暁の射手」とはどんな者達なのか。それこそが今巻の主役である、花矢(表紙右)と守り人である弓弦(表紙左)のコンビである。

 

射手として生きる以上、持ち場である土地から離れることは出来ず。「不知火」という人里離れた街の、そのまた奥地にひっそりと家族と共に住み。お仕事は三百六十五日、どんな時でも欠かせずに。しかも暁の担当である以上、仕事の時間は早朝帯。一人の少女に背負わせるにはあまりにも重すぎるものを背負わされ。日頃は市井の高校に通いながらも、弓弦にしか明かせぬ内心は、お役目への不満だらけ。

 

「面倒な主だと思ったか? 良いんだぞ。いつだって辞めていい」

 

だが、花矢はそこに負い目があった。訳も分からぬままに射手として選ばれた過去、唯一支えてくれた守り人であった弓弦の父親を引退で失い、代わりとして弓弦を求め。後に自分の我が儘で彼の人生を奪ってしまったという思いを抱えるからこそ、彼女はいつでも彼に選択肢を与える。

 

けれど、弓弦は明かさぬけれど、そこにこそ不満があった。自分は自分の意思で選んでここにいるのに。けれど主の本心が分かってしまうからこそ言い出せず。

 

何とまぁ、不器用なコンビなのだろうか。この作品におけるコンビの中でも、随一と言っていい程に。そんな二人の間に流れるのは、断絶の浅い川。そこを乗り越えたいと願えど、その一歩がもどかしくて。今日もまたすれ違いながらも、思いを巡らせる。

 

しかし、そんな二人に永久の別離の危機が唐突にやってくる。お役目を果たす霊山で起きた地すべり、そこで花矢を庇い弓弦が危篤の危機に陥り。何とか彼を助けたいと願えど、彼女のお役目が下りる事を許さない。

 

「任せて欲しい。弓弦の為なら私は何でも出来るんだ。証明する」

 

 けれど、それでも。救いたい。汚名を背負う事になろうとも、何よりも大切な彼の事だけは。相談を持ち掛けた輝矢、その隣の慧剣が唱えたのは、まるで時間差トリックのような大作戦。理論上は可能であるそこに、弓弦を助けるために「秋」の主従と「冬」の主従も巻き込んで。多くの現人神を巻き込み、大人達を欺く作戦が幕を開ける。

 

そこに躊躇わず、迷わず、それどころか先に道を作る勢いで皆が協力してくれる。それは、彼等もまた「人」であるから。同じ思いが分かるからこそ、思いは繋がり奇跡へ続く作戦の道が進んでいく。

 

「お前が欲しい。傍に居てくれ弓弦」

 

それは譲れない、「只人」の思い。大切な者への思いは、神も人間も変わらない。だからこそその思いが繋がって齎した結果は、きっと奇跡ではなく必然なのだ。

 

前巻にも増して感動迸る今巻。シリーズファンの皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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