読書感想:二度目の勇者に仲間はいらない ~魔王討伐済みの俺は伝説の武器の在りかも魔族の弱点もすべて知っている~

 

 さて最近、とある有名俳優が初代ポケモンのセーブデータが消えてしまった、というのがヤフーニュースになっていたのを見たのだが。画面の前の読者の皆様も、そのような経験をされた事はあるであろうか。 あると言う方もないという方も多分お分かりかと思うが、セーブデータが消えると言うのはキツいものがある。それが長い時間やり込んでいたり、思い入れのあるゲームであったとしたら、物凄くキツいものがあるだろう。

 

 

さて、ではこの作品はどういう作品なのかと言うと。超効率的魔王討伐譚、と銘打って入る。まぁ確かにその通り、ではあるだろう。しかしそこに伴うのは痛み、孤独。それを主人公である勇者、ジーク(表紙中央)は全て背負い込んで進んでいるのだ。

 

長き時間の中を旅し、数々の仲間を失いながらも魔王を討伐したすぐあと。突然発生した時空の歪みに巻き込まれたジークが次に気づいた時、そこは三年前、まだ勇者に覚醒する前の世界。またあの辛い旅を繰り返すのか、と三日間泣き通し、その後思い至る。今ならやり直せる、全て失わずに済む、と。前回の経験を活かし三年の間にまず回収できるものは回収し最速で勇者になる為に。回復役を自作、流通経路を作りお金を手に入れ。下水道に隠されている加護宝珠を手に入れ。故郷である領土の中にあるこの時点では未発見の大迷宮へと入って。勇者の紋章を隠す痛々しい策と共に、前回と同じ「こどくのゆうしゃ」という称号を得、まずは魔道具を手に入れる為に商業都市を目指すことに。

 

その途上、出会ったのは勇者に憧れ勇者を探す第五王女、コーデリア(表紙左)とその護衛であるエマ。ごろつきに絡まれていた二人を助け、闘技大会へ出場したら自身も出場していたコーデリアと激突、名誉は彼女に譲ったら師匠と呼び慕われてしまい。一人でいたいのに、と歯噛みしつつも一先ずその目的地までは、と共に進む事に。

 

さて、ここまで書いてきたらジークの人間性と言うのは、画面の前の読者の皆様にも少しはご理解していただけたのではないだろうか。 彼は、優しきに過ぎるのだ。 自分が最強になればいい、仲間なんていらない。そうすれば誰も巻き込まずに済むから。誰も殺さずに済むから、と。

 

だが、事態はジークの予想を超え動き出す、それは二周目の世界という未知の世界だからか。 魔族の最初の襲撃を防ぐため、その地点に向かえばコーデリアがいる街にも軍勢は現れ。その首魁は、この時点では出てくるはずのない魔族。

 

「あなたは、私の勇者様です」

 

「あなたに―――ついていってもいいですか?」

 

それでも戦い抜く、全員護るために。自身が傷つくのを厭わず、正体を隠しながら。少しずつその在り方が人々の中に刻まれていく中、ジークが感じるのは歯がゆさ。やはり一人では守れるものは少ない。だけど仲間は作りたくない。その理由は「こどくのゆうしゃ」、の本当の意味。失う程に強くなる、その悲しすぎる在り方。

 

だが、自身が助けた守りたいもの、コーデリアは彼の旅について行きたいと言い出し。更にそこへ前回仲間であった魔術師、リリアンディリス(表紙右)まで現れて。一筋縄ではいかない旅が始まるのだ。

 

痛ましさが重さと熱さを齎しているこの作品。意外と読み応えのある作品を読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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