読書感想:誰が勇者を殺したか 預言の章

 

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読書感想:誰が勇者を殺したか - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻を読まれている読者様が今巻の感想を開かれているだろうと言う前提の元にこの巻の感想を書いていく訳であるが。前巻で勇者アレス、の死を看取りアレスとして魔王討伐を成し遂げた少年、ザックの物語は存分に語られた訳であるが。今巻、何を語るのか? と思われた読者様もおられるかもしれない。実際私も、この後語ることがあるとしたらザックと仲間達の後日談くらいでは、と思っていた次第だ。しかしこの作品には誰よりも波乱万丈な経験をしている人がいる、と言っても過言ではない。

 

 

それこそは預言者、もとい王妃様。自身の死をトリガーとして時を巻き戻り、魔王を倒せる勇者が現れるまで何度も世界を繰り返した彼女。数多の勇者を見てきたからこそ、語れることがある。今巻で繰り広げられるのは、そんなお話。ザックたちの冒険の脇、語られなかった者達のお話なのだ。

 

「ロクでもないヤツでしたよ、レナードという冒険者は」

 

しかし知っての通り、勇者は1人。預言者が認めた者しか勇者ではない。故に語られるのは冒険者の物語。魔族を討伐できるほどに腕利きながら、金にがめつい強欲な冒険者のレナード(表紙右)。仲間であり槍の使い手、エフセイ(表紙左下)、元貴族の魔法使い、ソフィア(表紙上左)、元聖女候補の僧侶、ニーナ(表紙上右)。 曰く街を攻める魔族を倒す為、街そのものを囮にした。子供一人を助けるだけで金貨五十枚を要求した、穀物を奪った。幾多の勇者の冒険を見守る中、どこでも聞こえてくる汚い行為。魔族領に入り込んで死んだ、という最期の話。 何度目かの繰り返しの中、そのループの際の勇者の死に間に合わなかったレナードの到着を見。まだ時間はあるという事で、預言者はレナードに興味を抱く。

 

「俺が勇者を殺したんだ」

 

彼等の行い、それは表層だけ見れば悪。だけど奥まで見れば、それは確かに誰かを救う行い。確かに勇者じゃなければ世界は救えない。だけど勇者は、世界全部を救える訳じゃない。 だからこそレナードは、偽悪的に振る舞いながら誰かを救っていた。 手の届かぬ世界全てではなく、手の届く範囲の人達を。

 

その心の奥底、あったのは一つの後悔。彼にとっての勇者、ルークと共に戦わず逃げ出したという記憶。生き延びてしまった、真実を自分の中にだけ抱えて。 だからこそレナードは最後、魔王ではなく仇である魔人を殺すために。その戦いの中で死んでしまったのだ。

 

「勇者は魔王を倒せばいいだけじゃない。みんなを救わないといけない」

 

だが、今度のループの結果は預言者の行動により、変革する。助けを求める声に応じ駆けつけたのはアレス達。その手助けにより、レナードのかたき討ちは為り。アレス達は先に進んで。

 

「ああ、あんたは美しい。命を賭ける価値はある」

 

そして戦後。何とはなしに人助けをしていたレナード達をザックたちが迎えに行って。罪の告解、許しを得て。心の最期の蟠りを解いたレナードは王妃様と向き合うのだ。

 

 

そこにあったのは本物ではないけれど。確かに「勇者」の物語。前巻を楽しまれた読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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