前巻感想はこちら↓
読書感想:お兄様は、怪物を愛せる探偵ですか? - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、大分時間が経って約一年振りに刊行される今作品であるが、前巻を読まれたけれどあらすじを忘れた、という方は上記の感想でも覗いてきていただくとして。前巻、垣間見えたこの作品の作風はお分かりであろう。人の血の中に溶け、表に現れ害をなす怪異の力、そこに絡みつこうとする人の業、というものを。今巻においても、それは変わらず。寧ろそれどころか、より怪異が牙を剥いて前巻よりもたくさんの人が死ぬ巻なのである。
「では急ぎたまえ。家の前に迎えが来ているはずだ」
前巻、新たに葉介の義妹となった「焔狐」の力を持つ少女、由芽。彼女の本家への面通しも兼ね一度里帰りし。そこで兄である純夜から持ち込まれたのは新たな「お役目」。かつて朔が興味を示していた、とある大富豪のパーティーの場において起きた少女の神隠し事件。その被害者である少女が記憶をなくし、当時の姿のままで帰ってきた。だが様々な獣人に変化できる兄、玖郎が抜けられず、しかも時間の流れもあべこべにする濃霧が事件の場となった洋館周りに発生しており、更に戻ってきた少女も一人、そちらに向かったらしいと言う事態。まだ緊急の事態ではないが異常事態、という事で。由芽を留守番に残し、奏のお迎えで夕緋と合流し。濃霧に包まれた洋館へと向かう。
「帰るって、どっちに?」
霧の中で出会ったのは、当の行方不明の少女、瑠依珠(表紙)。彼女を見つけるのには成功するも、しかし霧に囲まれ戻れなくなり。一先ず事件現場になった洋館へ向かえば、其処にいたのは少女の家族、その子孫の一族の者達と使用人たち。帰る事も出来ず泊まり込むことになる中。使用人たちの自殺、更には一族の者達の殺人事件、夕緋への襲撃までもが起きてしまい。呆然としている間に、何故か時は巻き戻る。
そう、今回の謎はクローズドサークル。同じ一日を繰り返す、霧に包まれた洋館、という小さな箱庭。「揺」という蛇神とその眷属である「地多」と呼ばれる蟻達の伝承があるそこで。触れていくのは、神隠しの真実。
神隠し、それは解体されるべき幻想。なればそんな事はあり得ない。ではそこに在る真実とは? 洋館に隠された部屋、そこにこそ真実は隠れている。名家がひた隠しにしようとした、歪な真実。だけどそこには確かに、歪だけれど愛が有り。その先に生まれた、という結果は確かに存在している。
「最後の願いを、これから叶えよう」
為ればやるべきことは何か。知りたいと言う願いを叶える為には、遺された思いを探ることが求められ。蟻達が導く先に、真実は眠っている。
「全ての不可能を排除して残ったものが真実」
そして、葉介は最後のピースを埋める為に奏に情報を求める。ハズレを引き続けた事で掴みつつある、どうも荒唐無稽で信じたくない真実を求める為に。
より人の業が見える事件の中、決戦の予感高まる今巻。前巻を楽しまれた読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。