読書感想:霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない3

 

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読書感想:霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 安息の地、そんなものはどこにもない。追われ続け、どこまでだって逃げていく。例え最後にどうなろうとも、それでも二人で生きていきたい。お互い以外はいらない。そう嘯き、どこまでも地獄を突き進んでいくと言う朔と藤花の逃避行と言う個の作品の図式はここまで読まれている読者様であれば、ご存じであろう。彼等を取り巻くのは地獄、人の創り出した業の世界。そんな世界から世界へと渡り歩く中で、一時の宿となった小さな世界を破滅させていく。その先に何が待っているのか。

 

 

「俺の藤花だ」

 

「君の僕だよ」

 

前巻、死にかけ文字通り生死の境をさまよった朔。だが目覚めた彼の意識は地獄にはなく、藤花と共に現世にあった。

 

「君たちのことを、もっとも上手く使えるのは僕だからね」

 

 無論、そうなったという事は誰かに助けられたという事である。彼等を救出したのは、異能の家の一つである「山査子」の家の者、冬夜。彼はある目的の為、朔の力を求めていた。

 

「神がかりの山査子」と呼ばれる、「神様」と彼等が呼ぶものを自らに憑かせ異能を得ると言う体系を取るこの家。その一人に憑いた、本物の神様としか言えぬものを手に入れる為。冬夜は朔の眼の力を求めていた。

 

無論、只とはいかぬ。彼が自ら提案した対価、藤花との平穏の日々。だがその提案に心揺らしたのも束の間、二人は新たな人物に連れ去られる。その名は春日。冬夜と敵対し憎む実の妹であり、自在に羽の硬度を変える蝶を無数に操る異能の持ち主である。

 

趣味で霊能探偵をやっていると嘯き、相棒として藤花を求める彼女の手により、「地獄めぐり」と称して彼等は、幾つもの事件の場へと引っ張り回されていく。

 

被害者を殺さず、ただ眼球だけを潰す「眼球潰し」と呼ばれる事件。既に捕らえられていた犯人の秘めていた思い。

 

虫籠のような座敷牢に囚われていた男と女が二人ずつ、そして左手首から上を奪われた女性の死体が一つ。「死者の手首」は何故奪われた、その秘密に隠されていたのは愛。

 

山査子の表には出せぬ者達を隔離した施設で目撃した、化け物として扱われる者達の思い。

 

人か、化け物か、神様か。そこにいるのは化け物達。生きるために、誰かを蹴落とし犠牲にする醜い地獄。その地獄を統べる家の手の者たる冬夜と春日、憎み合う二人のぶつかり合う思い。

 

「おはよう、かみさま」

 

 だが憎しみのその奥、確かにあったのはお互いを思う歪なれど確かな愛。だが一度起きた因果は取り返せない。どんでん返しにより目覚めてしまう。世界の全てを呪わんとする「かみさま」とも呼べぬ呪いの塊が。

 

また一つの世界を潰し、それどころか世界の全てを滅ぼさんとするものを目覚めさせてしまい。逃避行の先、それこそ世界の全てを巻き込んで。いよいよ安息が許され無くなる中、二人は最後に何を選ぶのか。

 

次巻、刮目すべし。

 

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