読書感想:俺と妹の血、つながってませんでした

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は義妹ヒロインと聞いてどのヒロインを連想されるであろうか。由夢、または桜乃、姫乃という辺りの名前が浮かんだ読者様は是非に握手していただきたい。そんな前置きはともかく、義妹とは一番身近にいるヒロインの一つの形と言ってもいいかもしれない存在であり、お兄ちゃんという呼び方ひとつとっても様々なパターンがあり、そこに萌えを見出す読者様も多くおられるのも事実である。

 

 

ではこの作品は一体、どんな作品であるのか。それ即ちタイトルが全てを表している。妹と主人公の血が繋がっていなかったという所から始まる。秘密と常識を巡るラブコメなのである。

 

「嬉しい! 大好き! 会いたかった!」

 

「お兄ちゃんと血がつながってなかったら・・・・・・結婚するよ!」

 

息をするように人助けをする、文武両道で品行方正、イラスト投稿が密かな趣味である少年、光雪。そんな彼には妹が二人。年の離れた妹である四葉と、一つ違いの妹である久留里(表紙)。特に久留里はブラコンという範囲を軽々と飛び越えた言動と行動を見せる、「兄ガチ勢」であった。

 

 彼女の愛情表現をいつも通りに受け入れる日々、だがそこに変化が。久留里の高校入学前、父親から明かされた衝撃の事実。それは光雪と久留里が、親の再婚で出来た義理の兄妹であり血のつながりがないと言う事。衝撃の事実、そこから思うのは自分達の兄妹関係が普通ではありえない距離感であると言うもの。そこを早速正すべく、光雪は久留里に兄離れを促すも。持ち前の頑固さで久留里はそれを拒絶する。

 

「私・・・・・・コウちゃんの役に立ちたいんだよ」

 

それどころか、同じ高校に入学した事で学校での時間をも彼女は侵食を始め。学校である種の尊敬と畏敬を以て接され生徒会の一員も務める彼の役に立たんと大暴走し。結果的に生徒会の一員となり、光雪の同期である渡瀬と丁々発止のやりとりを繰り広げてみたりする。

 

そんな彼女に呆れ、振り回されながらも。アクシデントでラブホに泊まったりすることになって、理性をがんがんと揺さぶられたりしながらの日々。そんな中、久留里の思いもまた語られていく。

 

それは家族愛、と言っても良いものか。よく見ればちょっと違うのかもしれない。兄であると言う建前があるからこそ踏みとどまっている、独占欲と執着心、恋にも似た重い感情がそこにあり。兄妹という関係を唯一無二だと思うからこそ、その関係でいたいとそこにいようとする。

 

「ああ・・・・・・なんだ・・・・・・そっかー」

 

 だがぶつかり合って、分かり合って。思いはどんどん止められなくなる。蓋をしようとしているのに、溢れてくる。そしてひょんな事から彼女は、家族の誰にも知られぬ間に知ってしまうのである。義理の兄妹であるという秘密を。

 

それは正に最後のハードルの撤去。建前を失くした、故にきっと。ここからはもう一直線、なのかもしれない。

 

繊細な心理描写がドタバタに添えられ、それが緻密に心を描き出しているからこそどこか地に足の着いたラブコメが繰り広げられるこの作品。そんな中で常識を問う、普通を問う。その命題が、確かな生活感の中で展開されるからこそ。この作品は心に残る面白さがあるのである。

 

心に確かに刺さるラブコメを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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