読書感想:990年後に復活した最恐魔王、人類殲滅を決意する。 ※ただし人類は衛星照準型レーザー兵器で待ち構えています



 さて、人間の文明というのはそれこそ千年単位で発展してきたわけであるが、例えば鉄腕アトム辺りで描かれた未来の世界の時代、というのは既に現実の時間軸に追いついてきているのである。だが鉄腕アトムのようなSFで描かれた世界は、未だ現実に出来てはいない。SAOのようなフルダイブ型のVRもまだ出来ていない。そこに至るまでには、それこそ技術のブレイクスルーのような事態が必要であるのかもしれない。

 

 

と、そんな前置きをしてきたわけであるがこの作品は魔王が不遇なコメディである。どういう理由で不遇なのか、と言うと。それこそ自分がまるで浦島太郎のような事態になってしまったと言う所から始まる不遇なのである。

 

「愚かなる人類に、千年の猶予をくれてやる」

 

かつて剣と魔法の異世界で、勇者と魔王は相争い。勇者アルズに討たれた魔王ゼルフェリオ(表紙右)は、死の間際に転生の魔術という秘宝を発動し。千年後の世界へと、転生を果たすために眠りについた。

 

「今日は潔く敗北宣言をしに来たわけで」

 

 しかし、予定より十年早く九百九十年後に目覚めた彼が目にしたのは、魔法を超え機械化を果たした人間の文明と、そこいらの子供が魔王以上の魔力を持つまでに魔力が底上げされ、蘇生術も強化術も当たり前に使われる、それが全て当たり前という、魔王との決戦に向けて極端に先鋭化された思考が蔓延る、一種の終末世界であったのである。

 

どう足掻いても絶望、自分は今、そこいらの子供よりも弱い。潔く「REX」と名付けられた自分と戦う組織に降伏に行くも、悪戯として取り合ってもらえず。それどころか、ひょんな事からこの時代にまで現存していた聖剣に、嫌がらせのように勇者として認められ。ゼオと名を変えた彼は、当代最強の魔法少女、ベルカ(表紙左)を師匠に共同生活する事になり、人間世界での暮らしを始めるのであった。

 

生活を続ける中、目撃するのはどう考えても、ぶっ飛んだ技術レベルの魔法と、倫理観を捨てきり過ぎた思考の根底。どう考えてもこんな世界は壊した方がいい、と思えど自分には何の力もなく振り回され。アルズが保管していた自分の記した魔術書に悶絶したりする中、マッドサイエンティストとして追放された科学者、ブラウニーが衛星兵器を乗っ取り、反旗を翻す。

 

彼女の考え方は、今の時代から考えれば臆病者の考え方。だがそれは、ゼオにとっては何よりも望んでいた同士としてのもの。彼女を殺させるわけにはいかない、だからこそゼオは聖剣を手に、勇者として立ち上がる。

 

「今の俺は、少しも負ける気がせん。だから―――無敵だ」

 

圧倒的に足りぬのは魔力、それを補うのは冥府を見てきたからこそ出来る術、支えるのはかつての魔王としての特異性。だがそれは常用出来るわけではなく、故に簡単に不遇は変わらぬのである。

 

倫理観という頭のネジが外れているが故に、シュールな笑いのあるこの作品。色々な意味で笑いたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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