読書感想:魔王城、空き部屋あります!

 

 さて、人間は自活の意味も込めて必ず一人暮らしを経験した方が良いという論理を何処かで聞いた気がするが、そも一人暮らしの基準を、画面の前の読者の皆様は何で求められた事があるであろうか。一人暮らしするに当り、求めるのはどんな要件であろうか。

 

 

まず交通、周囲の利便性というものを求められる読者様もおられるかもしれない。家賃等諸費用の安さで求められる読者様もおられるかもしれない。その基準は人それぞれ、ではこの作品における賃貸マンション(?)、魔王城は一人暮らしをされている読者様にとってはどうであろうか。

 

「・・・・・・何だ、この場所は」

 

剣と魔法と奇跡の支配する異世界、ロッケンハイム。かの世界で類まれなる武力と魔力、交渉術で人間を圧倒してきた魔王、バルバトス(表紙右上)。かの魔王を討つ為に、聖剣の祝福を受けた脳筋な勇者、シグナ(表紙下)。魔王の交渉は一蹴され、本気の死闘が繰り広げられる中。その死闘により発生した空間の歪みにより、彼等は魔王城ごと日本の豊洲のど真ん中に転移してしまったのである。

 

「それで? まず、何を決めればよいのだ」

 

転移してしまった土地の地権者、京子をサポートする女子高生、結亜(表紙左)に退去を求められるも、面倒を見ていた死霊術士の幼女、ネフィリー(表紙右)もこちらに来ていたと言う事が判明し、まずは帰る手段を得る為。バルバトスは九十戸は用意できる魔王城をマンションとして貸し出す事を決め、魔王城は新たにマンションとして生まれ変わる。

 

・・・も、そう簡単にはいかなかった。まずこの魔王城、そも電気が通っていない。あと埃が凄い結構な年代ものの物件である。魔法の力を駆使しその辺りも整え、何とかマンションとしての体裁を整えるも、面談の末に入居してきたのは魔王も頭を抱える曲者達。

 

実力も伴わぬ夢追いラッパーのザヴァ―、片付けられない芸術家の浮世。炎上常習者のゲーム実況配信者のノゼル。動物好き過ぎる進一と博恵夫婦。家賃以外にお金をかけてしまう入居者が揃ってしまい、家賃回収もままならず。頭を抱えつつも家賃の回収に走ったり、金策の為にバザーを開催してみたり。

 

ドタバタ、だけど賑やかで明るい。皆がいる生活の中、人間の今まで知らぬ一面を見た事でバルバトスの表情はいつの間にか、柔和となっていく。対し、顔が曇っていくシグナ。バルバトスが人間と交流し、信頼を得ていったことで。彼は勇者としての存在意義を見失いかけていたのだ。

 

(魔族だろうが、人類だろうが、関係は無かったのか)

 

見失う意義、変化に戸惑う心。その二つの思いは、土地神である龍神との戦いの中で大切なことに気付く。誰かを守りたいと願った己の起源、それが何処にあるのかという事を。

 

ドタバタのままに駆け抜ける中に、どこか心温まる要素も出してくるこの作品。笑って心を温めたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

魔王城、空き部屋あります! (電撃文庫) | 仁木 克人, 堀部 健和 |本 | 通販 | Amazon