読書感想:マーダーでミステリーな勇者たち

 

 さてさて、時に画面の前の読者の皆様は、最近のミステリーが隆盛しているこのラノベ世界についてどう思われるだろうか。個人的に私は、流行と言うのは移り変わるものであり、何度も流行が変わるのを見て来たので、それもまた一つ面白いと思っているのであるが。さて、ではミステリーに付き物の要素と言うのは何であろうか。その一つとして「裏切り」というのがあるかもしれない。読者の予想を裏切る展開、犯人かと思えば真犯人は別にいる、そんな展開もあるであろう。

 

 

ではこの作品においては、どんな裏切りがあるのか。それは、タイトルへの裏切りと言える。マーダーでミステリー、ではある。しかしこの作品の本筋は、ミステリーではないのである。

 

3つの大国と小国がいくつか存在する、レムリアと呼ばれる大陸。国々の間で貧富の差はあれど概ね平和、しかしこの大陸には時折魔王と呼ばれる存在が現れ魔物と魔族を率いて人類に敵対し。聖剣に選ばれた勇者と、各国から選ばれた実力者たちが勇者パーティとして、魔王の討伐を目指すこの世界で。

 

「僕らの勝ちだ!」

 

旅に出て1年、艱難辛苦の末に魔王城にて魔王を討伐した、勇者(表紙下中央)。同じ田舎の村出身である狩人(表紙下左)、各国から派遣された魔法使い(表紙下右)、騎士(表紙中央右)、武闘家(表紙中央左)、そして聖女(表紙上)と共に、魔王城の調査も兼ねて数日間、魔王城の探索を開始して。その矢先、魔王討伐のその日のうちに。聖女は何者かに斬殺されてしまい。状況的にこの中に犯人がいる、という仮定の下に聞き取りを開始する。

 

「私たちは最後まで仲間になれなかったんだ」

 

「ある、と言ったら?」

 

「全ては勇者を救うため」

 

「それはあなたの幸せであって勇者の幸せでないと理解すべき」

 

その中で明らかになっていくのは、仲間達それぞれの思惑。まず最初のヒントは、英雄となる勇者の特別性。勇者と言う存在を求めるのは誰か? 仲間達はそれぞれが受けた命令の為、ひいては旅の中で育てていた愛の為に。それぞれ勇者を搦めとり、自分の手で守ろうと、幸せにしようとしていた。それは敵であった、魔王も同じ。幾度もの戦いの中、勇者と言う存在に焦がれを抱いた魔王は、とある魔法の研究をしていた。己が勇者と共にあれるようになる、とある魔法を。

 

そう、この作品の根底にあるのは愛。決してきれいなだけではなく、独占するためなら実力行使もやむなしという、時に血にも塗れる愛。その果てに、仲間達全員の思いは明かされ。只の村人であった為、世間の黒い部分まで知らなかった勇者に、選択権は委ねられる。

 

「僕にとっては最上の結果だと思う」

 

ただ、守りたかった。自分の周りの小さな世界くらいは幸せにしたかった。だけど世界は理不尽で、自分と言う存在は将来の火種。そんな状況で勇者が選ぶのは、ある意味傲慢な、強欲な、だけど勇気ある選択肢。見果てぬ明日、何にも縛られぬ為の選択肢。

 

 

根底に愛があるが故に、ちょっと一味違う面白さがあるこの作品。一味違うミステリー的作品を読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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