読書感想:正しい勇者の作り方

 

 さて、時に料理というのは初心者はアレンジをしない方が良いと聞いたことがあるが、画面の前の読者の皆様は料理はレシピがあるならレシピ通りに作られるだろうか、それとも自分なりにアレンジを加えられる方であろうか。アレンジ、というのは基本的には諸刃の剣、慣れるまではやらない方がいいもの、であるらしい。

 

 

ではこの作品においてはどうなのか。正しい勇者の作り方、というのがこの作品のタイトルである。しかし勇者、というのは何かの符牒という訳ではなく、文字通り我々が知っている意味での勇者である。 では勇者の育て方、ではなく勇者の作り方とある。それはどういうことなのか。 その作り方は、正しく勇者ものとしては異端。文字通りのデスゲームの様相がどんどん明らかになっていくのだ。

 

人間の国が長い間魔族に攻められ続け、あらゆる意味でもう限界を迎えていた所に登場した人類史上歴代最強の勇者、ブルム。多くの国、人々からの希望を集め、魔王城に攻め入り魔王と対峙するも、惜しくもあと一歩及ばず敗走。ブルムの半ば引退状態故に世界には新たな勇者が望まれ、真の英雄である次世代の勇者の選定が急がれていた。

 

勇者になれるのは、一人一人違うスキルを発現させる、女性にしか発現せぬ勇者の証を持つ者のみ。だが、主人公であるブルムの弟子の少年、イフは男性でありながら勇者の証が発現していた。

 

「キミたちは、僕を勘違いしてるよ」

 

そんな彼は、ブルムの最後の言葉、言いつけを破り、次世代の勇者になるために勇者選抜試験へ参加する事に。その場に現れた皇女は宣言した、勇者ゲームという聞き慣れぬ言葉を。最初のゲーム、それは十分間生き延びると言う者。試験役として現れたブルムは突然剣を抜き、凶行を始める。 何故、と問いかけられた彼女が明かしたのは衝撃の事実。彼女は、魔王に掠り傷を与えただけというもの。だから次世代の勇者には、魔王以上の残虐性と冷酷さを持ってもらわねば、と。 恐怖と混乱が支配する中、イフはブルムと激突する中で驚きの再会を果たす。 聖剣に選ばれていた生き別れの妹、シェーラ(表紙)に。

 

何とか生き延び、押しかけ弟子な少女、イデアに懐かれて、シェーラとも言葉を交わし再会を喜び。だけど、勇者ゲームは容赦なく続く。そして、この非道なゲームに参加している以上、妹であってもライバル、蹴落とすべき敵。

 

開催されるのは悪辣なルールを持つゲーム。 互いに手錠で繋がれた村人を、殺される事無く目的地に送り届けるにはどうすればいいのか。 毒を飲まされた状態で古龍の潜むダンジョンを攻略しなければならない、古龍を殺すにはどうすればいいのか。更にゲームの裏、運営委員たちの殺人事件も巻き起こり。 

 

「これが、俺の覚悟と最後の力だ・・・・・・」

 

そこにあるのは誰の思いか、それは彼女と彼の思い。もう悲劇の輪廻は繰り返させぬ、しかし魔王も殺さねばならぬ。だからこそいかに手を血に染めようと、愛する人を己の手で殺すとしても。凄絶な覚悟、決意の剣は大切なものを殺めていくのだ。

 

痛ましく切なく、それでも進み続けるこの作品。デスゲームものが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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