読書感想:無能と言われ続けた魔導師、実は世界最強なのに幽閉されていたので自覚なし

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「中二」と聞いて何を思い浮かべられるであろうか。「中二病でも恋がしたい」という作品を思い浮かべられた読者様は、恐らく今の時代からすれば古のオタクであろう。だが、時に中二というのは心の栄養になられる読者様もおられるかもしれない。この作品はそんな読者様にお勧めしたい作品である。

 

 

神々から一人一つ与えられる、様々な効果を持つ恩恵、「ギフト」が存在するとある異世界。その世界で隆盛を誇る、世界最大の版図を誇るアース帝国。その帝国の辺境伯の息子であるアルス(表紙左)は「ただ耳が良くなる」だけという「聴覚」というギフトを授かった事で、生まれてすぐに結界で封印された塔に幽閉されていた。

 

「オレの知らない魔法を知りたいんだ」

 

 だがしかし、彼はある日、父親であるオーフスの施した結界を打ち破り、外の世界へと飛び出していく。魔法を習ってもいない筈なのに、魔法で結界を打ち破って。何故そんな事が出来たのか。それは彼の耳の良さが、世界の全てに届いていたから。それこそ天の神の世界にまで。全てを聞き、学ぶことで。彼は気が付かぬ間に世界最強になっていたのである。

 

旅を始めて早々、帝国に故郷を滅ぼされた亡国の王女、ユリア(表紙右)を追手から救い、彼女を旅の道連れに永世中立である「魔法都市」を目指す事になり。共に魔物と戦ったり、野営したりと絆を深めながら。辿り着いた魔法都市でユリアの従者であるエルザと、ユリアの妹であり現在は魔法都市のギルドマスターを務めるカレンと出会い。カレンのギルドに居候させてもらいながら、魔法都市での冒険者としての日常が幕を開ける。

 

「その時はぜひ背中を流させてくれ」

 

が、しかし。彼は今まで幽閉されていたこともあってか、極度の世間知らずであった。それこそ、カレンの悪戯でユリアやエルザと混浴する事になっても何も気にしない程に。気が付かぬ間に女性の心を殺す文句をこれでもかと全方向に発射し。いつの間にか彼はフラグを無数に立てていく。

 

「よもや、このようなところで・・・・・・出会えるとはッ!」

 

―――だが、同時に彼は期せずしてその凄まじい力を遺憾なく解放していく。遠征先で魔物をぶちのめし、更にはユリアを追ってきた帝国の兵隊達を怒りのままに叩き伏せ。更にはギルド同士の争いに巻き込まれた仲間達を、彼に魅せられた神の力で治療し。正しく神のような力に、ユリアを追ってきた「聖法教会」の聖騎士、ヴェルグは歓喜の叫びをあげる。彼の中に、魔力に愛された者の証、「黒き星」の素質を見つけ。彼こそが教会が長年探し続けてきた者であると狂喜する。

 

その実力を測る為、ヴェルグにより唆され禁忌の技術で強化した帝国最強の一人、アルベルドが襲い来る。彼の手により、大切な仲間達が傷つけられる。

 

「オマエの魂が塵となるまで殺し尽くす」

 

―――許せない、身を焦がすのはいっそ冷徹なまでに凄絶な怒り。約束を守るために全ての制約を放棄し、彼が全ての力を発揮する。その時、世界は作り変えられる。彼の為だけの世界に。それは正に、全てを統べる者の証。

 

そう、このとき世界は彼を中心として動き出した。あらゆる勢力が争う事になるであろう混沌の中心に、彼は位置を据えたのである。

 

「天帝」と書いてインドラと読み、詠唱が魔法を規定する。正に噎せ返るほどの圧倒的中二、だがその中に様々な魅力が確かに溢れている。だからこそこの作品は、確かに面白いのである。

 

心躍らせるファンタジーが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

無能と言われ続けた魔導師、実は世界最強なのに幽閉されていたので自覚なし (オーバーラップ文庫) | 奉, mmu |本 | 通販 | Amazon