読書感想:あした、裸足でこい。

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は何か、書き換えたい過去、取り戻したいもの、拭いたい後悔、というものはおありだろうか。過去を取り戻す為には、何らかの方法で過去に行かねばならぬ。だがしかし、過去に行っても一つ、問題があるとも言える。それは未来を確認する手段がないと言う事。過去の行動が未来を変えたのか、わからぬままに行動しなければいけないという事である。

 

 

ではこの作品はどうなのか。この作品もまた、青春のやり直しの為にタイムリープするお話である。しかし他の作品とは違う点が一つある。それはこの作品においては、過去に遡行しっぱなしになるのではなく、現在と行き来すると言う事。そして現在の協力者の記憶をチェックの材料にする事である。

 

「多分、そうなんだと思う」

 

成績は微妙、夢は挫折、恋人とは自然消滅、更にはその恋人である千華(表紙)は国民的ミュージシャンに。冴えない高校生活を過ごした、よくいるかもしれぬ一人である少年、巡。彼は卒業式の日、衝撃のニュースを耳にする。それは元恋人である千華が、遺書らしきものを残し失踪したという事。失意のままに共に過ごした部室を訪れ、記憶の奥底から浮かんできたメロディを、そこにあった彼女愛用であったピアノで表現し。

 

「俺・・・・・・ニ斗を助けられるんじゃないか?」

 

 その瞬間、謎の光に包み込まれ、巡は過去の景色の中で千華と再会を果たし、その景色は途切れ。だが共に居た後輩、真琴の記憶が過去の景色の中での巡の行動により少しだけ変化したと聞いた事で、巡は一つの天啓に至る。今のは現実、過去への遡行であり、もし過去を変えられるのなら、千華を助けられるのではないか? と。

 

そうと決まれば話は早い、原理は知らない、けれど今、自分にもできる事がある。思い出のメロディに導かれ、過去へと何度も還る中。一先ずの目標として、巡は千華の拠り所となるべく、天文部の復活を目指す事となる。

 

それはまるで、忘れかけた夢が動き出すように。胸の隙間を、失ったはずのものが少しずつ埋める様に。

 

まずは部員の確保をすべく奔走する中、千華の幼なじみである萌寧とぶつかり合い、真摯に想いを伝え。更には有名な先輩であり、千華とはちょっとした因縁持ちである春樹の手も借りて。

 

だが事態はそう簡単にはいかない、何故ならば過去に戻ったとて特別な力がある訳でもなく、未来は簡単には変えられぬから。何とか部員を集めても、教師である千代田先生からは活動実績を求められ。 アーティストの卵としての千華に接触してきた、女子大生ライターのminaseとも関わり合いながら。実績を作る為の行動は、不運なトラブルから窮地に巻き込まれる。

 

「世の中には、取り返しがつかないことがいくらでもあるんだ」

 

 だけど、諦めるわけにはいかない。当然だ、もう後悔は沢山だ。そして今、自分にはできる事がある。彼女を救える好機がある、ならばそれを取り逃すわけにはいかぬ。不器用でも、不格好でも。巡は真剣に、真っ直ぐに駆けていく。

 

それはまさに明日を迎える為に。だからこそ、あした、裸足でこい。と言うのかもしれない。

 

切なくて、でも温かくて甘くて。前作にもあった面白さが更にレベルアップし襲い掛かってくるこの作品。ちょっと不思議で切ない作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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