読書感想:三角の距離は限りないゼロ9 After Story

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:三角の距離は限りないゼロ8 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 色々あった、色々傷ついた。そして選んだ。春珂と秋玻という二人の間で思い悩み、最後は二人ともを選ぶと言う答えを出した四季。ようやっとその関係は前巻を以て、導かれるところまで導かれた訳であるが。画面の前の読者の皆様、こうは思われていないだろうか。ラブコメとして甘さがもう少し欲しかった、と。

 

 

仰りたい事はよくわかる、何せこの作品は付き合ってからを楽しむ作品ではなく、付き合うまでを描いた作品であるのだから。切なさと揺れ動く心の動きを持ち味にしたこの作品に、ほのぼのとした時間はあまりなかったと言ってもいいかもしれない。と、いう訳で今巻では書き残した部分、恋人としての日常の風景と、ごく普通の子供達らしいほのぼのとした青春の光景を描いていくのである。

 

「今から、ちゃんと付き合おうよ」

 

四月になって暦美が帰ってきて、また日常が始まり。上野公園にある博物館でのデートに臨むも、ここで一つすれ違いが起きてしまって。宙ぶらりんだからこそ付き合っていない、という認識の四季と告白し合って付き合っていると言う認識の暦美が可愛らしくすれ違い。何とか最後は認識をすり合わせ、改めて付き合いだす。

 

ライター業に興味がある暦美が、試しに「memo」というウェブサービスで記事を投稿したら期せずしてバズって、暦美がちょっと調子に乗ってみたりして。

 

霧香も含めて皆でプールに行く中で、四季と暦美の恋人同士としての様子に、霧香は改めて恋を終わらせ、さっぱりとした様子で自分の道へと歩き出していく。

 

社会系の学者によるサブカルイベントのトークに暦美が出演する事となり、少しだけ幼い頃の千華との出会いや、四季の声上げによる小さな微笑ましい波乱があったりして。

 

 それは新たな時間へ進む為の、最後のモラトリアム。そんな中で皆それぞれ自分の道を選んでいく。自分の夢を追い、時に悩みながらも周りに助けられて。百瀬もまた自分の幸せへと歩き出す中。四季や暦美を始めとする皆は、学び舎を巣立っていく。

 

「・・・・・・ずいぶん、遠くまで来たね」

 

思い出した小さな忘れ物、けれどそれは見つからなくてもいい。その代わりに忘れ物が運んできたのは、まるであの日の焼き直しのような光景。随分、遠くまで来た。もう、あの二人はいないけれど、確かにここにいる。そして今、自分達の道はまだ途中。これから幸せになっていくための道はまだ半ば。もう一人じゃない、お互いがいる。当たり前だけど尊い事実を再認識し、また二人で歩き出す。

 

「いつかあなたに会えるのを、楽しみにしてる―――」

 

今、二人の距離は限りなくゼロ、直線状。そしてまた新しい春が来る。2人が進んでいく道を追い、彼女達の春が幕を開けるのである。

 

何気ない尊さと幸せに溢れた今巻。シリーズファンの皆様は是非。最後まで満足できるはずである。

 

三角の距離は限りないゼロ9 After Story (電撃文庫) | 岬 鷺宮, Hiten |本 | 通販 | Amazon