読書感想:怪物中毒

 

 さて、この私、真白優樹は言うまでもなく「ラノベ中毒」と言ってもよい。勿論この中毒は既に血肉の一部であるし現状脱却する気も全くないわけであるが、画面の前の読者の皆様は何らかの中毒であられたりするだろうか。それが良い中毒であるのなら、無理に抜く必要はないかもしれない。だがそれがもし悪い中毒であれば、早急に抜かれる事をお勧めする。無論、中毒と言うのは簡単には抜けないものであるのだが。

 

 

ではこの作品における中毒、「怪物中毒」は良い方か、それとも悪い方か。それは一概には言えぬ、のかもしれない。

 

「―――最高にキマる自由が、あるらしい」

 

賽の目が違えば東京と呼ばれたかもしれぬ、日本ではなく秋津洲の首都、京東。史上最大のパンデミックから化石燃料ブロック経済に回帰し、孤立を深め往く混迷の時代。この国は今、世界最高水準の防疫体制を確立する為に、強制参加し社会的信頼度がスコアとして記録されるSNSにより管理され、匿名性と自由が失われた超管理社会と化している。

 

しかしこの国において、唯一匿名性が許された場所がある。その場所の名は「仮面舞踏街」。防疫体制の確立に多大な貢献をした巨大企業が売り出す、飲むだけで化け物になれるサプリを飲み、カジュアルに獣人に変身し、何でもやらかしていい街。だがそこは自由な代わりに秩序のない無法図な世界であり、誰の命も等しく軽く。故に言うなれば「自己責任の理想郷」のようなものなのである。

 

「―――ようやく《普通》になれそうだ」

 

そんな街で犯罪抑止、治安維持、更には清掃まで行う巨大企業の下請け、「幻想清掃」に属する少年、零士。彼は古代の幻想種、「吸血鬼」の末裔であり、保護されぬ代わりにルールに縛られぬはぐれ者。 彼は相棒である人狼の末裔、月と共にとある高校へと編入し。その中、「仮面舞踏街」の噂として駆け抜ける「轢き逃げ人馬」の操作に当たっていた。

 

予見された惨劇の日、予想通りに現れる人馬。だがそこに予想外の人物が乱入する。零士の顔見知りであり、将来有望な陸上選手ながらも事故で選手生命を絶たれた少女、命。人馬の正体に心当たりのある彼女に、人馬を止める事を願われ。零士は「吸血鬼」という枠組みでしか測れぬ、その本当の力で人馬を制圧する。

 

 通常ならばここで終わるだろう。だが事態はそう簡単にはいかぬ。何故ならここは超管理社会、白と言えば黒も白くなる。スコア目当ての無自覚な善意により、人馬の正体とその家族は闇に葬られ。怒りに震える命は多額の報酬と引き換えに、引き続きの調査を依頼し。零士と月は更なる調査へと向かう。

 

鍵となるのは人馬となる為の、市販なぞされていない幻の薬、「幻想サプリ」。その出所を追う中、優等生ながらも少し不穏な噂のある蛍(表紙)に行き当たり。仮面舞踏街へと消えた彼女を追い、合法のBARで話を聞くうちに、これまた禁忌の薬である「怪異サプリ」により顕現した都市伝説の襲撃を受けて。正しく舞台の違う怪異と死闘を繰り広げる事となる。

 

「―――ヒトであることを、諦めない‼」

 

 そうまでして、何故彼等は戦うのか。この誰の命も簡単に失われる、冷たい世界で。それは人として生きてきたいから。失われた命の分まで幸せであるために、ささやかな幸せを求めて。ただそれだけを求めて、彼は戦い続けるのである。

 

正しく臓腑の底にたまるような熱さ迸る、骨太でただ面白いとしか言えぬこの作品。唯一無二の作品を読んでみたい読者様は是非に。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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