読書感想:未来から離脱したので女教師の夢に全振りします

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様の中に学生であられる読者様がおられたら、これから書いていく事は若干、未来への希望を奪う事になるかもしれぬので、その辺りはご容赦の上でこの先の感想を読んでいただきたい次第である。では、画面の前の読者の皆様は大人になったら諦めがちな事、とは何であると思われるだろうか。未来への希望に満ち溢れている子供時代から見ると、それを諦めるのか、と驚いてしまうような事とは何であると思われるだろうか。

 

 

自分の趣味、結婚、はたまた色々な答えがあるであろうがその一つとして、「夢」というものをあげる読者様もおられるかもしれない。無論夢を諦めないと言う読者様もおられるであろう。諦めず叶えた、という読者様もおられるであろう。しかし諦めた、という読者様も一定数おられるであろうし、最初に抱いた夢よりもはるかに現実的な新たな夢を目指す、という読者様もおられるであろう。

 

 この作品のヒロイン、和々花(表紙)もまたかつて叶えた漫画家と言う夢を周りに反対され諦めてしまった者である。そして主人公である鷹空は、そもそも夢どころか未来すら諦めた少年である。

 

人生はRPGに似ている、そんな思いを抱えながら、継母と義妹から離れる為に東京で一人暮らしを始め。始まって早々、同じマンションの上の階の部屋であった和々花が酔っ払った末に自室へ乱入してくると言う騒動に巻き込まれ。そんな一件から和々花とプライベートで関わることになり、鷹空は強引な彼女のペースに巻き込まれていく。

 

「好きな仕事じゃなかったのか?」

 

「もしもマンガ家に戻れるのなら教師を辞められるの?」

 

「現状を選んだのはアンタだ。それが嫌なら今からでも頑張ればいいだろ」

 

 しかし、酔いに任せて彼女はいつも愚痴っていた。漫画家という夢への後悔を。夢に破れそれでも諦めきれず、けれど現状に甘んじていた。選んだ末の苦悩を抱えていたのだ。

 

そんな、大人としてはみっともない姿をこれでもかと見せてくる彼女に湧いてくるのは好奇心。それはまるで、幼き日にアリの巣に水でも流し込むかのようなもの。悪魔的な心を押し隠しながら、これでもかと後悔を刺激し。いっそ悪魔的に誘惑するかのように、鷹空は遠慮なく責任もない言葉を口にする。

 

だがその言葉に、和々花は奮起しさっそく準備を整え、ネームを作り始め。唆した身として、面倒を見るかのようにサポートに回る鷹空。その姿はまるで和々花が理想とした編集者のように。

 

「このネームを受け取ることができて嬉しかった」

 

 気が付いた時、鷹空の中にも確かに芽生えていた。何も持っておらず未来に希望なんて抱いていなかった、けれど今、彼の中にあるのは将来への夢。それもまたいいか、と思えるような未来。

 

正に化学反応、刺さる人には刺さるかもしれないし、刺さらない人には刺さらないかもしれない。けれどもし刺さったのなら、唯一無二の面白さが楽しめる筈である。

 

見たことのない作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

未来から離脱したので女教師(モブ)の夢に全振りします (ガガガ文庫 ガま 8-1) | 真白 ゆに, 河地 りん |本 | 通販 | Amazon