読書感想:青春2周目の俺がやり直す、ぼっちな彼女との陽キャな夏

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「花言葉」、というのはどれだけご存じであろうか。花に添えられている花言葉、それは同じ花であっても、本数によって意味が違っていたりして。例えばドラマで見るような、薔薇の花束にも本数によって、意味があったりするのである。そう考えると、花言葉と言うのは奥が深い、のかもしれない。

 

 

ではこの作品には上の前置きが何の関係があるのか、と言う事であるが。とても関係があると言わざるを得ない。それどころか、表紙からも関係がある。表紙のヒロイン、羽純が抱えている向日葵にも意味がある、というのをお先にお伝えしておきたい。

 

彼女に中学生の頃に、中学生らしいちょっと気取ってクサい告白をするも、それが破れ更に彼女が姿を消して十年。仕事は駄目で金もなく、夢も諦めて。主人公である青年、藤ヶ谷は腐ったような日々を過ごす中、ひき逃げ事故に遭い。死の淵で羽純と再会し、彼女にキスをされる。

 

「ん、悪い、色々借りた」

 

 次の瞬間、目覚めたのは天国ではなく、あの日。かの告白事件が起きる前、中学二年生のあの日。予想外な展開の中で、彼は思う。あの黒歴史に辿り着かぬ為、まずは色々と変えていこうと。手始めに妹の朱里に鋏を借り、清潔感のない髪を整え。登校途中に、あの日は助けなかった隣のクラスのギャル、美羽を助けた事で。彼の世界は一気に広がっていく事となる。

 

気が付かなかった、取り巻いている世界が実は壁を作らなくても良かったことを。あの日は拒んでいた世界は、実はそんなには悪くないものであった、という事を。

 

全てが広がり、一気に影から陽へ。青春の色が変わる中、再び羽純と出会い、向き合う事となって。夏らしいイベントを一緒に過ごす中。実は知っているようで知らなかった彼女のあの日の真実に触れていく。

 

何故、彼女は花を残して告白を断ったのか。何故、彼女はいなくなったのか。全部が見えるわけではない、それでも真実の一端は見えてくる。では何が出来るのか。未来の力を使えるわけもない、そもそも未来の自分も何が出来るわけでもない。

 

「―――絵を描くんだ」

 

 だけど、今の自分。未来の自分では出来ない事はある。それは忘れかけた夢。あの日の夢をもう一度その手に、今度はきちんと思いを込めて。その先に、あの日とは違う結果を掴むことに成功して。しかしそんな彼を嘲笑う様に、再びのタイムリープが発生し。巻き戻った未来では衝撃の光景が待っている。

 

どうも、彼だけではなく、もう一人タイムリープしている人物がいるらしい。ではもしそれがその人の意志であるのなら。彼女の望む所は本当は何なのか。

 

仄かなラブコメだけではなく、タイムリープが謎を呼んでいるこの作品。一筋縄ではいかぬラブコメを読んでみたい読者様は是非。 きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 青春2周目の俺がやり直す、ぼっちな彼女との陽キャな夏 (電撃文庫) : 五十嵐 雄策, はねこと: 本