読書感想:高嶺の花には逆らえない

 

 さて、「高嶺の花」とは何を以て高嶺の花と言うのか。それは色々あるかもしれないが、答えの一つとして不可侵性をあげられる読者様はどれだけおられるだろうか。触れられぬからこそ届かない、故に高嶺の花。そして届かぬからこそ、高嶺の花が考えていることは分からない。ではこの作品における「高嶺の花」、学校一の美少女であるあいり(表紙)は何を考えているのだろうか。その心にあるのは只一人への愛、そして同時に隠し切れぬ闇が介在しているのがこの作品なのである。

 

 

ちょっと変わり者な普通の少年、葉。新たな生活が始まったその日、あいりに一目ぼれを果たした彼。募る思いを抑えきれぬ彼に、学校一のイケメンである友人、新は手伝いを申し出て。彼の手により告白の場は用意される。

 

 だが、約束の場で待っていたのは新の告白と言う裏切り。失恋に傷ついた翌日、登校したのは見事なスキンヘッドになっていた新という衝撃の光景。

 

「お弁当作り過ぎちゃったんだけど・・・・・・よかったら食べてくれないかな?」

 

そして何故か、お弁当を作って来たり、メルアドを聞いて来たり。新と付き合っている筈なのにぐいぐい葉へと来るあいり、というべたべたのラブコメ的な異常な光景だったのである。

 

「私のお願い事を三つ叶えてくれたら・・・・・・付き合ってもいいよ」

 

 その裏にあるのは何か、それはあいりの秘めた思い。彼女の事情は見えぬけれど、そこには確かな葉への思いが込められている。彼の事が好き、彼の事しか見ていない。それと同時に、新の事をこれでもかと嫌悪し、彼の事を利用して何かを成そうとしている。彼も気付かぬうちに彼を罠に絡めとり、彼を何処かへ行かせようとしている。

 

新に対してあるのは怒り。彼の方は覚えていない過去、其処に何かがある。だがそれは見えてこない。

 

だが、それを知らぬままに新はあいりの事を愛している。葉を見下し、全てを奪ってやろうと画策している。

 

そして、この複雑な関係に絡み合う少女はもう一人。それはぽっちゃり系の千鶴。葉とひょんな事から昼飯を共にする事になった友人であり、彼と関わるうちに彼の事を好きになりだした少女である。

 

 恋は奪い合い、その事実を示すかのように出会いぶつかり合うあいりと千鶴。それが面白くないと言わんばかりに卑劣な手で葉を貶めようとする新。だが些細な言葉から形勢は逆転し、逆に新が自業自得の目に陥る。

 

「やっぱり、放っておけないよ」

 

だけど、それでも放っておけない。自分も父親の転校続きで孤独を知っているから。だから少しだけ、葉は新を助けるために声を上げる。

 

 

それじゃあ、おやすみ―――葉くん。

 

 だが彼は未だ知らぬ。あいりが自分に抱いている恋慕が狂おしい程に大きい事を。彼女と自分の間には、過去の縁があるらしいという事を。

 

正に新感覚、謎と真っ直ぐな愛が迸るこの作品。同時に群像劇的な青春を描いており、真っ直ぐに面白い。だからこそ、色々な意味でぞくぞくしてしまうのかもしれない。

 

謎なヒロインに心揺さぶられたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

高嶺の花には逆らえない (ガガガ文庫 ガと 5-1) | 冬条 一, ここあ |本 | 通販 | Amazon