読書感想:やがて黒幕へと至る最適解1

 

 さて、時に「最適解」というのは近道、最短の道のみが正解なのであろうか。きっとそんな事はない筈だ。その正解は時に遠回り、そして関係なさそうな道程であったとしても何処か正解に繋がっているかは分からない。そして大きな目標を達成しようとするのなら、きっと重要なのは様々な事の結果を積み重ねると言う事。一つ一つの積み重ねが連鎖して作用し、きっと望む結果に繋がっていくはずである。

 

 

さて何が言いたいのかであるが。この作品の主人公、カルツ(表紙右)は最適解を考え、突き進もうとしている。何の最適解か。それは黒幕に至る為。かつての主人、アルテシア(表紙左)を守り抜く為である。

 

異世界のとある帝国、三百年前に没落した公爵家の当主、アルテシア。彼女が「病死」した後、十年の間に帝国の情勢、大陸の勢力図は塗り替わり、帝国の柱である六台公爵家の手により全ての国家は帝国の支配下に置かれた。その動きの迅速さと計画性に疑問を感じ、調べ上げたカルツが知ったのは、アルテシアの死が六台公爵家による謀殺であった、という事。そこで彼はどうしたのか。彼は十年にもわたる間、あらゆる事を調べ上げ。

 

「今度は―――『僕』がアルテシア様を救い出してみせます」

 

アルテシアの死にかかわるあらゆる因果、それを回避するために必要なもの全てを調べ上げ、これ以上ないまでに綿密な計画を立てて。主君より受け継いだ「時」の魔法により出会った頃、十歳の時に回帰する。

 

「―――僕自身が、新たな『黒幕』にならないといけない」

 

しかし、回帰した所で別に無敵の力がある、という訳でもない。元々カルツは孤児、一個人としては公爵家に立ち向かうにはあまりに無力。アルテシアの傍に仕える、それでは過去の焼き直し。ならばどうするか。裏で全てを操り六台公爵家を盤上で躍らせる黒幕になるしかない。

 

その為に必要なのは、自分の手足となる者、そして己の顔を隠して顔となってくれる者。人知れず死ぬはずだった凄腕暗殺者、ルチアを命を助けて味方にし。子供を装い賭け事に参加し、本命のお金を北方の商通を牛耳る若き商主、エデルに託して交渉の場に引きずり出して約束を結び。彼女の名義でこの時間軸では奴隷になっていた、エルフの王女様であるフェイユを助け出して。

 

「それでは―――今後の計画について話そう」

 

フェイユを顔役、「同士」としてまず狙うは公爵家の一つが狙う土地。本物の「賢者の石」が眠るそこを先に手に入れ、手中に収めて。

 

「これが―――お前を殺すために組み上げた最適解だ」

 

向かってきた公爵家当主、対峙して突き付けるのは静かだけれど激しい怒り。未来の知識を総動員、ここまで「黒幕」として誘導し続けてきた結果をぶつけ。また一つ、手駒を手に入れ本格的に黒幕としての道が始まるのである。

 

暗躍しつつも時に表で戦う、時に黒めだけれど熱い活躍の光るこの作品。心熱くなるファンタジーを読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。