読書感想:神様を決める教室

 

 さて、教室と言うのは学校があれば存在している空間である。存在しているという事はそこは物語の舞台になると言う事であり。時にラブコメの舞台となったり、時に謎部活の舞台になったりと用途は幅広く汎用性を持っている場所であると言えよう。その教室にいるからには、生徒であったり教師であったり、と様々な役目を与えられているといってもいいかもしれない登場人物達。そしてこの作品の登場人物達も「生徒」という役目を与えられている。と言いつつ周りは全員、神を目指すうえでのライバルであり。舞台は神界、死後の世界ともいえる場所なのだが。

 

 

「諸君は、次代の神候補に選ばれた」

 

あらゆる世界で、強く輝き、国や世界を救ってみせた英雄たち。彼らが集められた神界の学園。集められた目的は只一つ、次代の神を決める為。過酷な試練を幾つも乗り越え競い合い、神となるのは只一人。残る者達は全員死あるのみ。神となれば、あらゆる願いは自由自在。

 

「―――粛正者という」

 

その中に紛れ込んだ一人、名をミコト(表紙左)。彼は英雄などではない。師匠を殺し己も死を選んだ暗殺者だ。彼を始め幾人かの生徒に付与された役目、「粛正者」。試練の中、違反を犯した者共を狩り、そのスコアを集め願いを叶えられる代わりに神にはなれない者達。

 

「多くの人が、少しでも長く生き残れるように団結したい。それが私の目的です」

 

そんな彼のクラスには、異世界の聖女がいた。その名はルシア(表紙右)。聖女らしい綺麗ごとを真っ直ぐに唱え、融和を訴える彼女。無視しても良い、筈なのに。何故か目を惹きつけられる、まるで魂を惹きつけられるかのように。師匠に似ている、という理由で気付けば仲間になることを決め。続々と試練が始まる中、彼は全生徒達の融和を訴えるルシアの派閥の一員となる事に。

 

「お前が正しい心を持つ限り、僕はお前を護ってみせる」

 

しかし、立ち上がる派閥は一つではなく。異世界の王女様、エレミア―ノを中心にもう一つの派閥が出来て、対立の図式が出来始め。その最中、聖女であるルシアの秘めた呪い、そこにある浅ましさの中の正しさに、自身の気持ちが羨望であると気付き。彼女の事を守り抜くため、機械のように戦い抜くと決意する。

 

そこへ粛正者の中、持ち上がる話が届く。それはルシアがルール違反を犯した、という事。聞いてみればそれは事実。幾人かいる審問官の一人、ナッフェがルシアを狙い動き始める中、ミコトは守り抜くために、真実を隠し抜くために、真実を知るナッフェを始末する戦いへ。

 

「―――それを知るためにも、僕は戦います」

 

だがしかし、例え勝ち抜いて守り抜けても、まだいつかの危険の気配は続き。幾つかの謎は持ち上がる。 神様に近い生徒の元に現れる神様の羽根が、神様になれぬ筈のミコトの元に現れること。 そして、五千点もあれば死者の蘇生は叶うのに、九十六万点以上のスコアが必要な、ミコトの願い、師匠の蘇生。まだまだ謎は山盛りな中、バトルロワイアルはまだ始まったばかりなのだ。

 

殺すと決意したからこそ殺す、そんな何処か悲しくて、だけど純粋な羨望の気持ちが綺麗なこの作品。どこか胸をかきむしられるような作品を見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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