読書感想:火群大戦 01.復讐の少女と火の闘技場 〈帳〉

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 さて、「火」というものは原初、人間が手にした初めての発展のための道具であり自然現象である、というのは歴史の授業で習われている筈なので一旦置いておくとして。皆様は「火」を使う何らかの作品の登場人物と聞くと何を思い浮かべられるであろうか。因みに私は「ハオ様」(シャーマンキング)である。

 

 

と、言う前置きもさておき。「火」の能力と言うものはよくファンタジーで描かれる能力であり、オーソドックスな能力ともいえる。

 

 そんなオーソドックスな能力にも、使い方次第で様々な使い方がある。そういったそれぞれの使い方を以て、「火」を使う能力者同士がぶつかり合うのがこの作品なのである。

 

舞台となるとある異世界、この世界に於いては誰もが「火」、「風」、「水」、「土」の加護を持つ。しかし「火」の加護だけは乱立の精神を持つとされ、いつしか「禍炎」と呼ばれ忌み嫌われるようになっていた。

 

 奇しくもその加護を持つ名無しの少女。彼女が属していた少数民族の村は三日前、子供達が何者かに残さず惨殺されると言う鬱き目に遭い。敵を討つため、少女は現場に残されていた謎の銀板を頼りに、とある闘技場へと辿り着く。

 

かの闘技場で行われる祭典の名は「帳」。一年に一度行われる、「火」の加護を持つ者達を集め殺し合わせる興行の場。そこに参戦し、予選を圧倒的な力で制し。その戦闘スタイルから「女徒手空拳士」、ゼロフィスカ(表紙)という通り名を得る少女。

 

彼女の前に立ち塞がるのは、自分と同じ能力を持ちながらも、自身とは違い心のままに、己の信念に基づき生きる者達。殺し合いの相手でありながら、何処か歓迎されるかのように。時に絡まれ、時に仲良くし。復讐に囚われていたゼロフィスカは、今まで忘れていた人の温かさを知っていく。

 

 しかし、舞台は巡る。彼女の知らぬ間に巡っているのは運営からの回し者の思い、そして敵国の間諜の者達。そして敵はゼロフィスカの前に現れ彼女は囚われ。彼女を救うため、今まで戦ってきた者達は一時手を取り合い、この国を覆すと言うついでの目的を果たす為、共に作戦を開始する。

 

作戦に乗せられ、観衆の目の前でその力を余すことなく発揮する敵。幾多の「火」の力を重ねても尚、一撃を届かせるには程遠い、正しく強敵。

 

「―――お前には、死んでも理解できない」

 

 その届かぬ一歩、あと一手を詰める切り札となるのは何か。それは、ゼロフィスカに残されていた「半身」の力。かけがえのない友の遺した力が彼女の炎と溶け合い。一度きりの最高の切り札が目を覚ます。

 

鮮烈に、鮮血な。血塗れなダークファンタジーの中にそれぞれの思いがぶつかり合う厚さが迸っているこの作品。正しく金賞、その熱量は確かに素晴らしい。

 

熱いファンタジーを求められている読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

火群大戦 01.復讐の少女と火の闘技場〈帳〉 (ファンタジア文庫) | 熊谷 茂太, 転 |本 | 通販 | Amazon