読書感想:これが魔法使いの切り札 1.黎明の剣士

 

 さて、「切り札」という言葉が一番よく使われるのはTCG関連のアニメであると思うが、切り札というのは簡単に言えば見せ場を作ったり、勝負を決めるカードであったりする。そんなカードはデッキに何枚入れるのが正解なのだろうか。TCGアニメであれば、一枚だけ入れている切り札をナイスなタイミングで引き当てたりするものだが、現実的な構築で考えるのなら複数枚採用すべき、とも言える。では一体、どの方向に構築を考えるべきなのだろうか。

 

 

という趣味前回な前置きになってしまったが、この作品は先に言っておくとTCGなお話ではない。寧ろ王道のファンタジーなのである。

 

広大な大陸が四つの地域に分けられ、魔術師が社会的地位が高く様々な特権や恩恵が得られる世界で。東部の紛争地域で名を馳せる戦闘集団、ブラック傭兵団の一員、リクス(表紙中央)は自爆のフリをし、自身の戦死を装い。戦乱の場から離れようとしていた。

 

 

「・・・・・・やっぱ、傭兵はもういいかな」

 

その理由、それはもう血生臭い日々には飽きているから。明日の命も知れず、将来を不安視されて結婚も出来ず。若干拗らせつつも純情な彼は、自身の死を悼む仲間の声を背に戦場を離脱し。大陸西端の島国、エストリア公国へ。もっとも魔法技術が発展した国の世界最先端の魔法学院に入学する事となる。

 

「先生。それは破っちゃいけない常識だと思うんすけど」

 

が、しかし。リクスには肝心の魔法の才能が一切なかった。魔術師であれば必須の魂の領域、「スフィア」を開く事も出来ず。では彼には何が出来るのか。決まっている戦場仕込みの身体能力と剣術のみ。ある意味脳筋なその方法で、魔術師すらも舌を巻く成果を叩きだし。気が付かぬ間に周囲の度肝を抜いていくのである。

 

その中で、貴族のボンボンに絡まれていたツンドラ系少女、シノ(表紙下)を助けたり、帝国第三皇女であるセレフィナ(表紙上)に手駒候補として目を付けられたり。アニーやランディといった、定期船の中で出会った同級生も含め、学友グループが自然とできて。 中々魔術師になる成果は見えぬも、血生臭い日々からは考えられなかった穏やかな日々を手に入れる。

 

しかし、その平穏は長くは続かぬ。突如襲来する魔物、それを使役していたのは近くにいた黒幕。その口により明かされるのは、シノに関する衝撃的な事実。守るために戦えど、その手は圧倒的な力の前に屈しそうになり。

 

「俺・・・・・・皆を守るために、喜んで人間をやめるよ。後悔はない」

 

 

それでも、失いたくないから。リクスは喜んで、言霊による魔法を放つ。己と言う殻を捨て、かつての自分に戻る魔法。 ただ、敵を狩る。その為だけの無慈悲な自分に。その剣先に宿る孤独な黄金の光。それはリクスだけのもの。

 

「【ラストカード】」

 

それは未だ未熟なれど、伝説の力。かつて魔王を倒した伝説の剣士と、同じ力。リクスの中にも確かにあった魔法の力。それが紡ぐのは、状況を終わらせる切り札。 伝説の一端、その力。

 

 

未熟で時に空回り、それでも夢に向かって一直線。そんな大切な輝くような日々を過ごす、魅力的な彼等。嗚呼、思わず感嘆の息が出てしまいそう。それほどまでに心を燃やす、この面白さは嘘じゃない。この作品を面白いと言わずして何を面白いと言えばいい。

 

真っ直ぐ直球な学園ファンタジーを読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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