読書感想:クラスのぼっちギャルをお持ち帰りして清楚系美人にしてやった話

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 さよならだけが人生だ、と誰かが言った。出会いと別れを繰り返し、人は歩いていくものであるとも誰かが言った。さて、しかしさよならというものはそれまでの築いてきた関係を、その一つで無に帰してしまうと考えれば哀しい物である。だからこそ、もしさよならまでの時間が予告されているとしたら、其処までの時間は特別な意味を持つと思われるが、画面の前の読者の皆様はどう思われるであろうか。

 

 

「・・・・・・私、家がないの」

 

高校合格直後に父親の転勤が決まり、入学を控えていたため二年生になるタイミングで転校、そこまでの間は一人暮らし。そんな特別な事情を持つ以外は何処にでもいる普通の少年、晃。

 

 彼はある雨の日、雨に濡れる一人の少女に遭遇し家が無いと言う彼女を家に連れて帰る事となる。彼女の名は葵(表紙)。ほとんど登校している姿を見ない、孤高のギャルである。

 

彼女は語る。両親の離婚により母子家庭で育ち、数日前に母親の蒸発により家なき子となってしまったという事実を。

 

 彼女の姿が重なる、かつて恋した初恋の少女と。だからだろうか。晃は転校するまでの間、彼女を家に泊める事を決め。唐突に二人の同居生活は幕を開けるのである。

 

これから先、自分がいなくなるとしても彼女が一人でも生きていけるように、彼女がクラスに馴染んでいけるように。彼女のイメチェンから始め、勉強を見てあげたり。友人である瑛士とその恋人である泉も巻き込み。彼女の改造計画を進めながらも、何でもない日々を過ごしていく二人。

 

 そんな日々が、二人の心の距離を近づけぬ訳があるか、否、無い。何でもない日々を過ごす中、心を許し合う中で。二人の心の距離は徐々に近づいていくのである。

 

時に距離が近くなってドキリとしたり。時に、子供達と何気ない触れ合いをする彼女の姿に目を奪われたり。

 

どんどんと知らぬ顔が増えていく、目が離せなくなっていく。だが、この時間は制限時間付きであり、その刻限はどんどんと迫っている。だからこそ、何処か最後の一線は越せさせぬ、最後の一線だけは距離を引く。しかし、彼のそんな思いは葵に聴かれてしまっていた。その思いは、仕方のない事かもしれない。だが、確かに葵の心を不安定にさせる結果となり、すれ違いを招いてしまう。

 

―――ここで立ち止まっていいのか? 彼女から貰ったものを返さなくていいのか? 立ち止まる理由はありはしない。だからこそ今、思い出の場所へ駆け出していく。

 

「俺には葵さんが必要なんだ」

 

あの日と同じ雨の中、思い出の場所で伝える本心。彼女とのかかわりの中で芽生えていた初めての思いと、葵が心の中で何処かで欲しがっていた本当の言葉は葵へ届く。

 

何処か心温まるハートフルな展開が溢れていて、その中で丁寧に描かれる初々しい恋路が甘くて。だからこそ、この作品は瑞々しく甘く面白いのである。

 

繊細でハートフルな物語が読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

クラスのぼっちギャルをお持ち帰りして清楚系美人にしてやった話 (GA文庫) | 柚本悠斗, magako, あさぎ屋 |本 | 通販 | Amazon