前巻感想はこちら↓
読書感想:カノジョの妹とキスをした。2 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、前巻の感想を書いたのがちょうど一年前であるので、前巻の刊行は恐らく一年前である筈であるが、この作品に溢れる不純愛の傷跡は皆様の中にまだ残っているであろうか。不純愛ラブコメ、とこの作品はカテゴライズされている。―――だがしかし、画面の前の読者の皆様はこうは思われた事は無いだろうか。ラブコメのコメの部分、何処に行った、と。
それは確かにそのとおりである。この作品、コメディと呼べる部分が存在していない。決してコメディと呼んでいいのか、という疑問に駆られる。
ではこの作品にはコメディの代わりに何があるのだろうか。それは「愛」。それも「純愛」の方である。狂おしく只一人、博道だけを想う時雨。その献身的な愛が彼を狂わす材料となっているのである。
「そう。後戻りなんてさせない。絶対に。忘れさせてやる」
最後の理性が拒んだ、晴香へと言葉の刃を投げつける事を。だが、同時に心が拒んだ。晴香からのメッセージを聞いた博道が、姉とやり直そうとするのを。
だからこそ、もう後戻りはさせない。絶対に責任を取らせてやる。そう言わんばかりに、瞳に情熱の炎を燻らせながら。時雨は博道へとあの手この手で迫り来る。
時に彼に愛していると言わせたり、またある時には彼と満員電車で密着したり。
正に搦めとるかのように、締め付けるかのように。気が付かぬ間に絡めとられていく博道。だが、嫌なら拒めばよかった。拒絶したのなら、まだ戻れたかもしれなかった。けれど、それは出来なかった。それは何故か。それは、彼の心の中で徐々に時雨の存在が大きくなっていって来ていたから。
「今、私を引きはがしたら、私はそれをおにーさんの最終回答と受け取ります」
明確にあった好機、必要なのはドアを開けるよりも少し強い力だけ。だが、心がそれを拒否する。自分の見せかけの意思に反して、心は何処までも正直と言わんばかりにその手を出させない。
何故、何故。しかしそれは、ある意味で仕方のなかった事なのかもしれない。前巻で始まった晴香との乖離、その溝がどうしても深くなる中。自分に愛を与えてくれていたのは時雨だけだったのだから。
「それを晴香ちゃんが理解できていないようなら、君達もうそんな長いことないよ」
急に開いた夢への扉、それを前に博道すらも目に入らず。彼にどれだけ我慢させているのかも知らず、彼が応援してくれるのが当然だとばかり信じて。同じ夢を見ているようで、見ていない。お互い、別の夢を見ている。一番近くではなく一番遠くで。
「そんなに重いですか? 貴方がこんな顔をしている時に、隣にいようともしない女の騙る本当の愛とやらが?」
だが、時雨は違う。ずっと隣で一番近くで同じものを見ている。今ここにいない晴香とは違い、確かに愛を向けてくれている。
どうして俺は、晴香と出逢う前に、時雨と出逢えなかったんだろう。
だからこそ抱いてしまった、否、心に芽生えた。その思いは全てを終わらせる最後の鍵。初恋と言う夢の終わりであり、博道という少年が信じた永遠の愛が終わりを告げたという証拠。
だが、忘れてはいけない。そこにあるのは純愛だとしても、それは不純である事を。救えぬ愛を抱いた事を責める事は誰にもできぬとしても、和やかには終われないという事を。道理に反したのなら、対価を払う時が来るという事を。
まるで足元から崩れていくかのように、全てが崩壊し雪崩のように襲ってくる今巻。
恋が終わり、何を見る。不純な裏切りはどんな結末を齎すのか。
その果ての景色を早めに読みたくなる巻である。