読書感想:愛とか恋とか、くだらない。

 

一人じゃ辛いから、二つの手を繋いだ、というのは某泣きゲーの超有名主題歌であるが。人間とは一人では生きてはいけないものなのであろうか。今の世の中においては結婚や恋愛を選ばず一人、生き抜いていく人たちも増えている訳であるが。2人がいいか、独りでいいのか。その答えはきっと考えていても出るものではない筈だし、各個人それぞれの中に答えがあって然るべき命題であるのかもしれない。

 

 

ではこの作品はどんな作品か、というと。タイトルの通り。愛とか恋とか、くだらない。そんな考えを持つ二人のお話であり、不純愛。不純で純愛、と言えるお話なのだ。

 

三方を山に囲まれ、近郊都市部のベッドタウンと言う側面が強い地方都市。平凡な少年、祐真と幼稚園の頃からの腐れ縁な親友、晃成。そしてその妹である涼香(表紙)。時に彼女を振り回し、時に振り回され。まるで兄妹のように過ごし、意識する事はなかったけれども、彼女の中学の入学式、初めて意識した。

 

「―――恋愛なんて、下らない」

 

「―――バッカみたい」

 

そして月日は流れ、高校生。中学から仲良くなった後輩、莉子も加えていつもの四人組。そんなある日、五月。バイト先の先輩に恋をした晃成が急に色づき始めて。三人そろって呆れたり。だが、祐真と涼香の中に浮かぶのは何処か覚めた思い。 彼女は恋愛がよく分からない、彼は恋に対して臆病で。

 

「いいじゃん、どうせうちら初めてってわけじゃないし」

 

だけどお互いだけは、そんな事を意識せずに済む相手。だが、不意に涼香の家でひょんな事から妙な空気感に飲み込まれ。その空気感に誘われるかのように、キスをし。そして身体を重ねてしまう。

 

「あたしさ、今日はあの日のやり直しに来たんだ」

 

当然、意識してしまう。もやもやしてしまう。その意識は、莉子に頼んでイメチェンした涼香を見る事で更に高まり、まるで逃げるかのように距離を取り。しかし涼香はまた近づいてきて。彼女のお願い、初めてのやり直し。 やり直して、しかし共有するのは別に付き合う、という事を望まぬと言う気持ち。 お互いに本当に好きな相手が出来るまで、という制限を設けて。この肉体関係を続けることに。

 

その関係は気安くも、馴染んでいく。まるで埋め合うかのように、それがごく自然である、と言うかのように。 その関係に名前はない、けれど確かに祐真の、涼香の心を少しずつ変えていく。 大切にしたいから、とゴムをこっそり買いに行ったり、きちんと並びたいからと祐真もイメチェンに手を出したり。

 

「さぁ、よくわからん」

 

「嫌なこと、忘れさせて」

 

対し、晃成の恋は。呆気なくも破れてしまう。そのフリ方を目撃してしまい激怒する莉子、彼女を諫めようとするも言い方を間違えて傷つけてしまう涼香。 そしてやっぱり、恋愛なんて、と認識を固める祐真。 彼女の傷心を受け止め、忘れさせるためにまた身体を重ねて。

 

「・・・・・・ったく、お似合いだよな」

 

「うん、ほんとそう」

 

そして、涼香と莉子を仲直りさせるために、晃成をエサにしてまた四人で出かけたり。その途中で、不意の二人の空気感にお似合いの空気を感じて、眩しく見えたりして。

 

 

祐真と涼香、名前のない、けれど真っ直ぐに愛。 晃成と莉子、まだ一方通行の、花開く前の愛。 二つの純愛が対比され、それぞれの彩で描かれて。だからこそこの作品は複層的に甘い、のだ。

 

 

そんな、ここにしかない甘さを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 愛とか恋とか、くだらない。 (ガガガ文庫 ガひ 6-1) : 雲雀湯, 美和野 らぐ: 本