読書感想:両親の借金を肩代わりしてもらう条件は日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。ラブコメというジャンル一つとってみても、そこにはいろいろな派生形があるのは既にご存じであろう。では、そんなラブコメというジャンルの源流とはどんなものか。分岐する前、最初の大河は一体どんなものであるのだろうか。

 

そのような意味をこの作品に照らし合わせてみると、この作品は源流の流れをくむ作品といえるのではないだろうか。

 

さて、まずは皆さま、この表紙に注目してみてほしい。高校生カップルである。しかもハッシュタグに同棲なんてついている。実際に並んで歯磨きをするなんて、既に只ならぬ関係であると言っても過言ではない。

 

だがしかし、実はこの二人はまだ付き合っていないと聞いたら貴方はどんな顔をされるであろうか。

 

サッカー部所属のエースという肩書を除けば残りは平凡な少年、勇也(表紙右)。彼の両親は毒親とは言えぬかもしれぬが、結論から言うと中々にクソッタレな両親である。いつまで立っても子供みたい、商才も何もない親父とそんな親父に恋は盲目状態の母親。そんな二人が、結果的に勇也に3606万7977円というやけに現実的で、途方もない借金を押し付けられ蒸発された事よりこの作品は幕を開ける。

 

「その条件はですね―――私と同棲することです!」

 

普通であれば一巻の終わりなこの状況。しかしそこに救いの手が現れる。その手の主の名は楓(表紙左)。大手電機メーカーの社長令嬢であり、ミスコンでグランプリを獲得した才色兼備の美少女である。彼女に提示された条件は二つ。彼女と同棲する事。そして、高校卒業後に婿入りして楓の父親の後継ぎとなる事である。

 

いきなり何を言われているのか分からず混乱の極致に立たされる勇也。そんな彼をぐいぐいと楓が引っ張り、タワマンにていきなり始まる二人の同棲生活。

 

そう、彼からしてみればまさしく唐突に始まった、雲の上の存在との非日常。しかしそんな日々が、彼の心の傷を癒していく鍵となる。

 

「俺が怖いのは失うことなんだ。ある日突然、一緒にいるのが当たり前だと思っていた人達がいなくなったように・・・・・・またそうなるんじゃないかって」

 

勇也の心の中にトラウマとして残ってしまった闇。当然である、例え最早諦念していても親である。身近にいて当然の家族である。その家族の温もりが唐突に奪われ、今はもうない。

 

だがしかし、今隣にいる彼女、楓は自分を退屈させてくれない。

 

時に悪戯好きな側面を見せたり、人知れず運動している一面を見せたり、どんどん自分しか知らない一面を見せてくれたり。

 

「もし・・・・・・もし私が本当に風邪をひいたら。その時は・・・・・・勇也君が看病してくれますか?」

 

風邪を引いて倒れた時は、思わずドキリとするような弱さを見せたり。

 

「おやすみなさい、勇也君。大好きです」

 

恋人を越え夫婦のように同衾した夜、臆面もなく愛を囁いて来たり。

 

まるで包み込む母親のように、まるで支える妻のように、恋人のように。健気に勇也の事を見て影に日向に支えてくれる楓。

 

それは勇也の周りの人々も例外ではなく。羨み嫉妬する事はあれど、温かく二人を見守り時に苦笑したり。

 

「楓さん。あなたのことが好きです。世界中の誰よりも。吉住勇也は一葉楓を愛しています」

 

だからこそ、彼の中にあったトラウマの闇はいつの間にか晴れ、心の穴はまるでぴたりと噛み合うパズルの欠片のように楓で埋まり。星空の元、心を越えて一歩踏み出せたのだ。

 

 

糖分と尊みでジャブもつけずにストレート、ダウンしかけた所を更に追撃と言わんばかりにストレートの連続。

 

だが、だから良い。これで良い。これこそが良い。

 

特別な事なんて何もいらない。出会い惹かれ合い結ばれる。そして恋人を越え、支え合う家族となっていく。ラブコメは極論すればそれで良い。それで良いを真っ直ぐ丁寧にやっている、だからこそこの作品は尊く温かく面白いのだ。

 

ブコメ好きの皆様、どうか刮目せよ。これこそが王道。これこそが至極にして至高のラブコメである。

 

尊みと甘さでおぼれてみたい読者の皆様、とにかくラブコメが読みたい読者の皆様にはお勧めしたい。

 

絶対、貴方も満足できるはずである。

 

両親の借金を肩代わりしてもらう条件は日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。 (ファンタジア文庫) | 雨音 恵, kakao |本 | 通販 | Amazon