読書感想:それでも、好きだと言えない

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方には今、誰かに伝えたいという思いはあられるであろうか。もしその思いを伝える事が禁断だとしたら、それでも貴方はその思いを伝えたいだろうか。

 

夏の終わりのある日。事故に遭いかけた少年、悠人(表紙後方)。人付き合いを苦手とし、自分の殻に閉じこもり。内向的で自分の意見を言えない一人の少年。

 

そんな彼の命を救ったのは誰か。それこそがこの作品のヒロインであり、記憶喪失の幽霊、レイナ(表紙中央)である。

 

もう一度言おう、記憶喪失の幽霊である。そう、幽霊である。即ち彼女はもう死んでいる。この世にいない。

 

そんな彼女に憑りつかれ、悠人は彼女を成仏させるために記憶を取り戻させるための手助けをする事になっていく。

 

唐突に巻き起こった日常の中、巻き起こっていくのは何か。それこそ悠人の成長であり、レイナとの切なくてほろ苦く、何処か哀しいラブコメなのである。

 

レイナの記憶を取り戻す為、周囲とのかかわりをどうしても必要として。天真爛漫な彼女に支えられながら、勇気を出して一歩ずつ周囲と関わる一歩を踏み出して。

 

そうして徐々に広がっていく彼を取り巻く人間関係。憧れの人とまさかの友人となれたり、今まででは出来なかった周囲との本気のぶつかり合いを経験したり。

 

それは、効率だけを考え自分の感情を押し殺すだけでは見つけられなかった価値観。今まで知る事も出来なかった、全く知らない未知の世界。

 

そんな世界を齎すきっかけとなってくれた彼女を好きになるのは、ある意味当然だったのかもしれない。

 

だがしかし、彼女に好きという事は出来なかった。それは何故か。何故なら好きと言えない七つの理由があったから。解き明かしてしまったレイナの死の真相と、彼女が幽霊となってしまった理由があまりにも切なく、痛ましかったから。

 

詳しく語るのは野暮と言うものであろう、故にこの作品を画面の前の読者の皆様自身の手で取って、頁を開き確かめてみてもらいたい。

 

好きだと言えない、それでもこの想いは大きくなるばかり。そして解き明かしてしまった事で迫る、彼女との別れ。

 

「約束するよ。君のことを決して忘れない。君が生まれ変わったら、必ず会いに行くから」

 

あてもない約束。だけどそこに希望を信じて。彼女のいる場所から自分が見えたなら、きっと出会えると願って。いつかの運命の再会が来ると、そして告白の答えが聞けると信じて。

 

それは、死にゆく者が遺した呪いなのかもしれない。だけど、遺された彼が自分の道を歩いていけるように、彼女がかけた最後の応援なのかもしれない。

 

この作品は確かにラブコメである。何処までもビターに、奇跡なんて起きないラブコメである。

 

だけど、確かに心に残るものがある。だからこそ、どうか多くの読者様にそれが何かを確かめてみてもらいたい。

 

読み終えた時、貴方は何を心の中に得るのか。それを確かめてほしい。そして、いつか教えてほしい次第である。

 

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