さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は昔、飛び出す絵本なる本を読んだ事はあられるであろうか。本を開けば飛び出す立体的な仕掛けに、心躍った事はあるであろうか。
ペン回しをする事で時間の体感速度を上げる〈走馬灯〉の力を持つも、それ以外は普通の平凡な少年である主人公、文人。彼は失踪した父親の影響で本が大嫌いという性質を持ちながらも、図書委員として渋々と働いていた。
だがしかし、何の因果か。彼を誘い込むように図書室の片隅の暗闇が開き、不思議な空間へと迷い込んだ文人は不思議な本と出会い、それを狙い襲い来た謎の存在に自らの心臓を奪われてしまう。
そんな彼の元に、文字通り飛び出す本から飛び出してきた謎の少女。それこそがこの作品のヒロインであるフィフ(表紙)。生ける仕掛け絵本であり、禁書を監視する者。
だがしかし、彼女は元々は強かったのに、文人を襲った者との戦いで仕掛けの大半を失い、弱体化してしまっていた。禁書に恐れられる程の戦闘力は無くなってしまった。
彼女のマイスターへと気が付けば就任させられ、街を混乱させる実体化した古典文学達との戦闘を強いられる文人。だがしかし、語らずともわかる通り彼は普通の一般人である。戦闘経験なんぞ全くないずぶの素人である。
弱体化した管理人とド新人のマイスター。二人がコンビで立ち向かう敵は実体化した古典文学達。
気が付けば事態の中心。だからこそ嫌と言っている暇はない。立ち止まっている暇はない。
フィフが全く知らぬ、ガジェットや裏サイトを駆使して謎の行動をする生徒達の行動から事態の中心にいる禁書を探し当て。
「気持ちは大事ぢゃ! 気持ちが〈仕掛け〉を産むのぢゃから!」
そして、土壇場のハッタリと度胸と、拙いながらも必死に作り出した仕掛けが反撃の鍵となる。
ヒロインが本であり、人間の物理法則が通用しないからこそ生み出されるちょっとした肌色なシーンが可愛らしく、どこか色っぽく。そして知恵と機転と勇気で勝利を掴み取る、古典文学との戦いが真っ直ぐに熱く。
古き作品ではあるが古き良き。そんな枕詞がぴったり似合うであろう、正にライトノベルと言わんばかりに気軽に笑えて楽しめる作品なのである。
古い作品だと敬遠しないでほしい。今、楽しみたいのなら楽しんでみてほしいこの作品。
画面の前の読者の皆様も頁を開いてみるのをお勧めしたい。今の潮流に繋がる面白さがある筈である。