極限状態、その瞬間にこそ人の本性が垣間見えるというが、果たして画面の前の読者の皆様はもし唐突に緊急事態に巻き込まれてしまったら、どう動かれるだろうか。
突如、とある高校の一学年の生徒達は異世界へと否応なく、唐突に転移で送り込まれる。
その世界は、只の子供達である彼等にとっては正しく非日常、但し難易度はハードどころかインフェルノ。魔物達が跋扈し、命の価値が何処よりも低い世界。この世界には子供達を守ってくれる大人も法律も存在はしない。力なき者はどうなるのか。その答えは簡単、自然淘汰が如く無惨にその数を減らされていくだけである。
六十余名、それは一日で殺された生徒の数。もうお分かりであろう、この世界においては戦えぬ者は簡単に死んでいくだけなのだ。
正しく極限状態。命がけの死闘を強いられる子供達の心は歪み規律が徐々に崩れ始め、無法が彼等を裏で支配していく。
ある者は本能に従い、ただ子孫を残そうと見境がなくなり。
またある者は、強権を以て生徒達を纏め秩序を創り出そうと奔走し。
その裏で、箍が外れたならず者達が迷宮にたむろし富の強奪を狙う。
だがしかし、この作品の主人公であるワタルは気付いていた。この世界は自分がやり込んだ超ハードなゲーム、「ジェノサイド・リアリティー」に酷似した世界であると。
他の人が知らぬ事実と攻略の為の情報を彼だけが知っている。だからこそ他の者達が手間取る合間に最短距離で最強となる事が出来る。
他者の行動などつゆ知らず、どんな秩序にも従わず。早々に殺し合いにも適応し一人奥深くまで潜っていくワタル。そんな彼に女達は注目し、彼の隣にいたいとその側に集まっていく。
元NPCのうさ耳少女、ウッサー(一巻表紙)。生徒会長の幼馴染であり迫害された薄幸の少女、和葉(二巻表紙)。
数々の少女達を振り払おうとすれば出来ただろう。だが出来ぬのは彼の気性か、それとも人間らしい優しさか。
「・・・・・・出たとこ勝負だな」
この作品の中で繰り広げられているのは文字通り死闘である。一線先が死かもわからぬ激突であり、正に地獄もかくやという極限状態であり、その中で繰り広げられているのは本能と本性をさらけ出した子供達の群像劇なのである。
だが、だからこそ。下手にファンタジーに寄せずリアリティーがあるからこそ地獄が際立っている。だからこそ現実感があり読み応えがあるのがこの作品なのである。
一巻から二巻まで三年もの間空いてしまったこの作品。しかし三年前も今も変わらず通用する面白さがあるのは確かなのである。待たされた分面白いのも確かなのである。
ファンタジー好きな読者様、人の命が軽い作品が好きな読者様にはお勧めしたい。きっと貴方も満足できるはずである。