
さて、時に画面の前の読者の皆様もルーティーンと言う言葉を聞いたことはあるであろう。ルーティーン、言うなれば一連の決まった動作の連続。例えばマインドセットなどの為に行われるそれは、どちらかと言うとアスリートのような方によく見られる動作、であるかもしれない。しかし、画面の前の読者の皆様の中にも何か、ルーティーンを持っている方もおられる、かもしれない。この作品におけるヒロイン、小鳥(表紙)もルーティーンを持っている。ただ、それは一人では出来るものではない、という訳だ。
「孤高の氷姫」、と呼ばれてクラスでも一目置かれる小鳥。対し、陰キャでぼっちな主人公の拓海。一見すると住む世界の違う、クラスでも関りの無い二人。だがしかし、この二人には他人には秘密、不思議な関係があった。それは、ルーティーン、という名の性行為で繋がる関係。
「これでまた一つ実績解除、青春攻略できる」
だがそこに愛はなく、服を全て脱ぐ訳でもなく、言葉を交わす訳でもない。何故そんな愛のない事をしているのか。それは二人の過去に起因している。一年前、中三の時。当時は未だぼっちな陰キャで、嘘告白で傷ついていた小鳥と、怪我で部活を去った拓海はひょんな事から大ゲンカ、売り言葉に買い言葉で勢い余って初の行為へ。その後、高校入学の時に頼まれたのが青春攻略の協力者。なりたい自分に変わる為、勇気を持つ為。このルーティーンの協力者になっていたのだ。
「ずばり、会話をしなくていい!」
そんなある日、ひょんな事から知り合ったのは、学校中のお助けキャラな先輩、瑛。彼女と一緒なら普通に扱われていた、という事実に拓海の心は浮き立ち。苦手な男子との日直作業にアドバイスを貰った事で小鳥も憧れを抱き。彼女の様になりたい、と彼女の助けに押しかけて。とある部活のイベントのお手伝いをする事に。
それは二人にとっては初めての体験、正に青春そのもの。段々と嵌り込んでいって、朋に力を合わせて、不器用なりに立ち向かって。その果てに明らかになるのは瑛の事情。彼女もまた普通となることを求めていて。その手伝いを拓海は任せられて。
「ん、じゃあこれから拓海は協力者じゃなく、同志。青春攻略同盟」
拓海にも求められていく、変わる事、青春へと飛び込む事を。その変化の波に、彼もまた乗ることを選び。小鳥に一方的にルーティーンを求められる関係ではなく、自分からも求める関係へ。協力者から同志へ、一歩関係性を踏み出していくのだ。
熱血青春攻略ラブコメ、であるらしいこの作品。なるほど確かに、熱血かはともかく青春攻略、である。不器用に藻掻く、普通になりたい者、普通でありたい者の思い。それが響いているからこそ面白いと言える。
そんな面白さを見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: 孤高なカノジョと、彼女の部屋でシてること (角川スニーカー文庫) : 雲雀湯, 三守 なかば: 本