さて、ラブコメとはヒロインがいてこそ成り立つものであるのは自明の理である。複数ヒロインがいる場合、推しのヒロインが生まれる可能性があると言うのもまた自明の理であろう。では、この作品においてはどちらのヒロインを応援したらよいのだろうか? その答えは、この作品を読まれた読者様の中にしかないので、是非ともこの作品を読んでみて考えてみてほしい。
この作品の感想を書いていく前に、一つだけ述べておきたい。最近、幼馴染をヒロインとしたラブコメが増えてきているのは画面の前の読者の皆様もお分かりであろう。この作品も例に漏れず、幼馴染がヒロインである。
だが、それだけではない。この作品は「三角関係」ものである。そしてもう一人のヒロインは、幼馴染に負けず劣らずの強敵なのである。
八年前、初恋だった年上のお姉さんとのお別れ。それから八年、あの日の約束を胸に必死に勉強に励んできた少年、結斗。そんな彼の傍にずっといた、競泳バカの幼馴染、澪(表紙右)。
「でもルーティーンみたいなもんだし。ね? いいでしょ?」
ルーティーンと称してくっついてくるほどに自然にスキンシップを取れる、周囲からは付き合っているのではないかと周知されるほどに。けれど、結斗はお姉さんへの愛を貫き。微妙な関係を二人は続けていた。
そんな二人の前に、初恋のお姉さんが帰還する。彼女の名前は彩花(表紙左)。結斗の推しである若手人気女優、十条アヤその人である。
「好意を捨てる必要なんかないと思うけど?」
人前で冷たい態度を取られ、心折れそうになりながらも澪に背を押され。彼女を恋のキューピッドとして、結斗は彩花と再び距離を詰めようとしていく。
普通であれば、そのままゴールイン、となったのかもしれない。だが、そうは出来ない事情があった。そして彩花も澪も、結斗へと向けた隠した想いがあった。
澪にとって彩花は羨望の対象だった。自身には一切向けてくれない愛情を一身に受ける存在、それこそが彩花。
だがそれは彩花も同じ。彩花もまた、澪が羨ましかった。自分だって結斗が好きなのに。自分がいない八年を独占したのは澪であり、自分にはできない事を自然と出来るのが彼女であるから。
想いに応えたい、けれど自分には誰にも見せていない爆弾がある。自分に関わったら結斗を不幸にしてしまう。
「俺にも背負わせてください」
けれど、そんな自分も結斗は抱えようとしてくれた。だけど、縋れなかった。縋ってしまったら、彼の人生を歪めてしまうから。
「―――アヤ姉が要らないなら、あたしがもらっていい?」
その様子を目撃した澪の心中、悪魔が囁く。邪な思いが伸びあがる。諦めようとした思いが燃え上がる。
諦めようとする恋心と、諦められない恋心。複雑怪奇、何処まで行っても面倒くさい彼等の関係。けれど、その根底にあるのは純愛である。三人がそれぞれ、互いへと向けた想いによって成り立っているのである。
だからこそ、この作品はラブコメとして面白い。正に満点と太鼓判を押せる作品なのである。
面倒な人間関係が好きな読者様、三角関係が好きな読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
初恋を応援してくれる幼なじみとのラブコメ (ファンタジア文庫) | 神里 大和, sage・ジョー |本 | 通販 | Amazon