
さて、時にファンタジーをジャンルとするラノベには、冒険者と呼ばれる存在が社会に根付いている事は多い。探検者、探索者と呼んだりするかもしれないがまぁそれはそれとして。画面の前の読者の皆様は、冒険者という存在にどんな印象を抱かれているであろうか? 例えば実力主義、という事もあるだろう。例えばガラの悪い者達、という印象もあるかもしれない。後者から分岐して、社会的地位の低い、と言う事もあるかもしれない。
社会的地位の低い、根無し草。実力主義、力があれば問われる事は少ない。誰でもなれる。この作品はそんな冒険者、という存在に転職した元貴族の子供達、のお話なのだ。
数十年に一度、神の奇跡、神の耳目とも呼ばれる「光の巫女」と呼ばれる存在が生まれる世界。百年以上、光の巫女が生まれなかったファルタール王国に、平民として唐突に生まれた存在。王国法で王様であっても意志には介入できない、とされているその存在は王様の願いを聞き、貴族の通う学園に通う事となり。
「お貴族様ってのは馬鹿なんですかい?」
そんな存在が貴族の通う学園に通えばどうなるか。当然、近づきたい者達の暗闘が始まる。しかしそんなの知った事ばかりではない、と光の巫女と、何の下心もなく親友になったのがエリカ(表紙)。侯爵令嬢であり王国宰相の娘。巫女の近くにいる彼女を何とか追放せんと、様々な策略が企てられるも無に帰す中。何処かの大馬鹿野郎がその策略の一つに手を加えた事で。彼女は光の巫女暗殺を企て、身分違いの恋人と駆け落ちしたという名目で国外追放される事に。 その駆け落ち相手として手を挙げたのが、同じクラスの宰相の友人の貧乏子爵の次男、シン。「身分不相応のロングダガー」という異名を持つ彼は、エリカに初恋をしていたからこそ、総てを捨てる覚悟を以てその相手となる。
「そうですね、理不尽なぞ"轢殺"してやれば良いのです」
しかし、どうしても黒幕はエリカに死んでほしかったようで。王都を出てすぐ襲い来る賊は、人を魔族に変えると言う未知の技術を持っており。だが、嫁を護ると戦うシンの啖呵に感化されたエリカの心は復活し。圧倒的な魔法の力を以てあっという間に賊を片付けて。
「わたくし貴方を気に入りましたわ」
そんな彼女は、自分の為に戦ってくれてありがとう、と感謝するシンの性分と、己の為に時間を棒に振るというある意味愚かな覚悟を気に入って。少しずつ立ち直り始めていく彼女、と隣国で一から冒険者として始める事に。
名目上は夫婦、だがまだその心はエリカの中では名前のない恋の感情が育ちつつあるも、まだ無自覚。大きめに言っても、まだ両片想い。そんな二人は中々大変。冒険者としてのイロハを知らぬエリカが色々やらかしてしまったりする中、シンはそれを真っ直ぐに支えていく。
「後ろにエリカがいるから」
「前にシンが立っているから」
もう一度言おう、まだ両片想いがいい所である。しかしこの二人、息ぴったりである。途中で仲間になったシスター、シャラに呆れられるほどに。
「わたくしを守ってくださいましね?」
「馬車の時から貴方の切る"啖呵"は実に心地よいですね」
そして、お互いの思いを勘違いしながらリアルタイムで絆を深め、修羅場中に修羅場を解決し。この二人に掛かってしまえば巨大な竜とて家の頭金になり果てるしかないのである。
自然に二人の世界を作り上げる二人の、甘々根底のファンタジーであるこの作品。久方ぶりに心躍るよきファンタジーであったと満足させていただいた。そんな満足を味わってみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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