読書感想:口もききたくないあいつと、自習室で甘い筆談

 

 さて、時に私は誰かと話すよりかは文章に書いた方が自分の正直な気持ちを表現できるタイプであり、いわゆるコミュ障な方であると思うのだが。そんな私でも、誰かと筆談、という事はしたことがない。というか画面の前の読者の皆様の中で筆談、という行為をされた事のある読者様はどれだけおられるのだろうか。最早何でもLINE等のメッセージで送れるこの頃、筆談をしたことがある、という方は最悪絶滅危惧種であるのかもしれない。

 

 

しかし筆談、というのはこのSNS全盛期の世の中においてはある意味特別なものであるのかもしれない。何せ、アプリ等の履歴には残らないのだから。これはそんな、筆談と言う特別な行為で繋がる表向きは敵対関係な二人のお話なのだ。

 

生徒会と部活連合が代々、伝統的な抗争関係であり。どちらかがより支持を集め隆盛を極めたなら、もう片方は衰退あるのみ。故に、一種の歴史的エンタメを孕んだ互角の抗争関係を続ける、柊ヶ丘学園。この抗争関係において今、初めての事態が起きていた。それは生徒会長、部活連合総代共に一年生と言う事態。

 

生徒会長である、悪役が似合いそうな真面目眼鏡の真北。部活連合総代、どこかミステリアスな人気者の何南(表紙中央)。顔を合わせればそこに緊張感のあるぶつかり合いが発生する二人。そんなある日、生徒会副会長である卯月(表紙左上)が真北の眼鏡を破壊してしまい、弁償として買い換えた所を下世話な新聞部にスクープされてしまい。そんな話もどこ吹く風、な真北が一人でいた自習室に何故か何南がやってきて隣に座り。

 

『てか、付き合ってる人いる?』

 

彼女が無言で差し出すルーズリーフの切れ端、そこに書かれていたのは彼女の真剣な気持ち。それに対し筆談で応え、ミステリアスな彼女の意外とノリの良い真っ直ぐな年頃の顔を知っていく中で。

 

「端的に、この馬鹿らしい抗争を終わらせたい」

 

彼女が持ち掛けてきたのは、同じ、誰かによって定義された「キャラ」、「役割」を背負い生きてきた者としての提案。いい加減疲れた、青春を無駄にしたくないという彼女に協力を選び。予め打合せし、会議では息を合わせて議論を演出するという方法で周囲を欺き、裏から操っていく。

 

それに気づく者は無し、しかし下世話な影は迫る。下世話な新聞部が見つけ出したのは筆談の証拠。真北の事まではバレずとも、何南は心を揺らし一時的に離脱し。寂しさを覚えた真北が何南の無言のメッセージから察するのは、逆転への目。

 

「ですが僕たちは生徒会です。生徒のための組織です」

 

彼女から託されたのは、長期的な目標、二つの組織の融和への第一歩となる引金。それを無事に引いて騒動を終わらせ。二人の関係も一歩、ちょっとだけ前進するのだ。

 

周囲に隠す甘さがこそばゆく、悶えそうになるこの作品。持崎湯葉先生の世界を見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 口もききたくないあいつと、自習室で甘い筆談 (MF文庫J) : 持崎 湯葉, さぼてんむし: 本