読書感想:ファム・ファタールを召し上がれ

 

 さて、悪女と呼ばれる存在は歴史を紐解いてみれば世界にも日本にも存在している訳であるが、一般的な授業の範囲では習わないものであろう。なので歴史における悪女、というのは皆様の手で検索なりなんなりしていてだくとして。悪女と言うのはラノベにおける一つのジャンルとして定着している訳であるが、ラノベにおける悪女って大体更生したり勘違いされていたりしている気がするのは私だけだろうか。

 

 

さて、ではこの作品におけるヒロイン、にして主人公のニカ(表紙)は悪女なのか。それはもう悪女である、まぎれもない悪女である、更生、する訳でもない悪女である。そんな彼女のラブコメ、なのである。しかし作者様である澱介エイド先生の前作を知っておられる読者様、こうは思われなかっただろうか。前作という前例もあるけど大丈夫なのか、と。それはここから見ていこう。

 

人間の世界と魔族の世界、千年を超えた戦いはあまりに長く戦い続けた事でそもそも切っ掛けすら忘れられて。双方のトップによる和睦が成立し五十年、ありていに言えば平和になった世界で。

 

「ええ。ですから仕事を持ってきました」

 

「魔界まるごと、わたくしに平伏させて差し上げます」

 

魔界側で持ち上がったのは、人間との融和計画。そこで魔界側で白羽の矢が立ったのは、副官であるメイド、クーリが全ての仕事をこなしてくれるので悠々自適な引きこもり生活をしていた事で、結果的に魔界一平和な生き方をしていた魔王、ノア。そして魔界から求められ、人間界から生贄が如く送り込まれたのがニカ。二つの国と八十四の街を魔性で取り込み、千を超える人間の性癖を歪ませた「傾国の悪女」。

 

「気絶しています」

 

さて、そんな悪女が相手ではノアとて危ういのでは? と思われた方もおられたかもしれないが。ニカにも一つ予想外の事があった。それはノアがどうしようもなくコミュ障、更に女に免疫がない、という事。予想外の歓待、更にはノアに色仕掛けの一手を繰り出すもあっという間に気絶してしまい。ニカの策は失敗に終わる。

 

「実はニカ様、恋をさせるのが下手じゃないかな、なんて」

 

「もう、無理をしないでくれ」

 

それは正に初体験、ムキになってシチュエーションを変えたり様々な搦め手を試すも度の結果でも気絶しか出せなくて。そんな中、配下にしたスライムメイドのムースの何気ない一言と、ノアの純粋な言葉がニカの心を揺らす。悪女として生きてきた彼女の、内面へと迫る。それは誰もがしてこなかったから。

 

「僕は、強すぎる」

 

配下の反乱、そこに絡んだニカにノアが晒した心の弱み。強すぎるから、誰も傍にいてくれない。誰とも手を繋げない。そんな彼の何も知らぬからこその悪意なき一言はニカを怒らせ、離れていこうとしていこうとする中で襲撃してきたのは人間から差し向けられた暗殺者、パメラ。

 

「だから、やり直させて欲しいんだ」

 

「ここにいていいんだ。君が望むのならば、いつまでも」

 

配下たちもやられて絶体絶命、その場へ駆けつけたノアは、己の情けない部分を反省しニカに手を伸ばす。もう一度友達から始めさせてほしい、絶対に守るからと。 その手を取ったニカに力を示すかの如く本気の力を解放し。暴竜へと姿を変じたパメラを、遠くへ吹き飛ばして終わらせて。

 

「ご覧の通り―――わたくしはすっかり、この城の虜にございます」

 

その先、ニカの新たな計画が始まる。この平和を楽しむ余裕も出来た心で始める、悪女の心構えで真っ直ぐな恋で行う計画が。

 

生きにくい二人が出会い、恋へと繋がっていく。悪女、でありイイ女であるヒロインによるラブコメを楽しんでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: ファム・ファタールを召し上がれ (ガガガ文庫 ガお 11-3) : 澱介 エイド, ひょころー: 本