さて、自分には何か特別な力がある、と妄想された事のあるお年頃があった方もおられるかもしれない。自分は他の人とは違う、という考えで自分だけの世界に浸っていた、そんな中二病染みた時期のあられた読者様もおられるかもしれない。しかし、ほぼ大抵の場合そんな事はない。特別な力がある人間なんてそうはいないのだ。
他の人とは違う、特別。そんな存在が自分の力を敢えて低く見せる、いわば「能ある鷹は爪を隠す」といった状況から始まる作品は多分、ファンタジーの方に多いかもしれない。しかしこの作品の主人公、シオン(表紙中央)は逆張り、その逆。自分の力は低いのに敢えて、その力を高く見せようと偽って、その演技をしているのだ。
世界の大地や空気中を漂い、多くの生命体の体内にも流れている力、魔力。それを魔術として行使できる者を魔術師と呼び、六歳から九年間魔術を学ぶ魔術学校、そこを卒業して入学できるより高度な学びが出来る魔術学園があって。だが社会全体で見れば活躍できる現場の数に対して魔術師の数は余っており、半端な実力では名にも得られぬ世界。
「やはり力加減が少し難しいな」
しかし魔術学園二年生のシオンは、敢えて伝説級の魔力、SSS級の持ち主であるかのように振る舞い。その徹底した演技ぶりに周囲は騙され警戒を抱き、彼はそれを見て悦に入っている。 時に担当教員であるリナ(表紙左下)に勘違いされたりしつつ、彼は今日も演技していた。
「ああ、勿論。絶対に叶わないと言う程度のこと、夢を諦める理由にはならないな」
だが、彼の演技は妄想、ではない。緻密な計算の元に作られた仮面であり。彼自身、C級程度でしかない自分の実力を正しく理解している。だけどそれでも、叶えたい夢がある。ならば諦める理由は何処にもない。例え成果が目に見えずとも、人より百倍の努力を積み重ね。彼は真っ直ぐに頑張っているのだ。
そんな彼の、努力に裏打ちされ演技という姿勢に彩られた強者の姿。それは偽り、だけど偽りだって誰かを魅了し、時に救っていく。学園序列五位のエリザ(表紙右上左)や一位のユフィア(表紙右上)に、知らぬ所で影響を与え。
「・・・・・・誰かを助ける為、何かを守る為に立ち向かう時。いつだってそいつが英雄なんだ」
封印から目覚めた邪悪な黒龍をも、演技とハッタリ、そして全力の死力で撤退に追い込み。その場にいて、けれど何も出来なかったと悩む大英雄の子孫、アルフォンスを肯定する。 例え強き力はなくとも、大きなことを成し遂げていなくとも。あの時立ち向かう勇気をもって振り絞った彼は、英雄なんだと。
コメディ、に見えて根っこは骨太で熱くて。自分だけの覇道を行く主人公に魅了されるこの作品。格好いい主人公を見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
自分をSSS級だと思い込んでいるC級魔術学生 1 (オーバーラップ文庫) | nkmr, 嵐月 |本 | 通販 | Amazon