読書感想:マスカレード・コンフィデンス 詐欺師は少女と仮面仕掛けの旅をする



 さて、全く自分とは関係ない、人格や性格を自分として身に着け演じる者と言えば? という質問をされて画面の前の読者の皆様は誰を連想されるであろうか? 役者、という答えを連想される読者様も多いかもしれない。詐欺師、という答えを連想される方もおられるかもしれない。ではこの二つに同時に当てはまる言葉と言えば何かと聞かれて、「仮面」という言葉を連想される読者様はどれだけおられるであろうか?

 

 

 

仮面をかぶり、自己を偽り誰かを演じる。決して同列とは言えぬであろうし、そう言ってしまうと違うかもしれぬ。だがそれを生業としている、と言えるかもしれない。ではこの作品はどうなのか、と言うと。主人公である青年、ライナス(表紙左)は「詐欺師」である。自分とは全く違う人間の性格、個性、パーソナリティといったものを「仮面」として自己暗示で纏い。ただ金の為に詐欺を働き、十二年前の革命により不死の王、それに連なる貴族たちが打倒され共和国となった国で、人々を騙しながら生きている。

 

「あなた、嘘をついているでしょう」

 

 そんなある日、偶々商売の機会を感じて乗車した旅客列車で。どこか浮世離れした少女、クロニカ(表紙右)は唐突に声をかけて来たかと思えば、いきなり彼の嘘を見破ってくる。その力は、「貴血因子」の一つ、「真理の義眼」。貴族の血脈を持つ者が持つ異能で、彼の魂を見破り。それどころか魂に根付く記憶を弄り、ライナスの貯め込んだ金を人質に取ってきたのだ。

 

 

いきなり目を付けられ、否応なく搦めとられ。しかし彼女と共に行動しなければ、金のありかは思い出せぬまま。仕方なしに、海を見に行きたいという彼女に付き合う事となる中。波乱は唐突に巻き起こる。

 

クロニカを狙う、「騎士団」と呼ばれる謎の面々。「貴血因子」の力をかざし襲い来る刺客達に立ち向かうのは、ライナスの度胸と咄嗟の知恵。追われるように街から街へ移動し。時にクロニカの我が儘に乗せられ、街の人の悩みを解決したり悪人を詐欺で騙したりしながら。やっぱり波乱と修羅場に追われていく。

 

 

彼らに絡みつくのは、クロニカを狙う因縁。新たに紡いでいく縁。そしてライナスに落とし前をつけさせんとする、過去のカモの縁者。無傷という訳にはいかず、その旅路はいつも傷だらけ。

 

「あと一つだけ、わがままを聞いてくれる?」

 

その果て、目的地となる海。そこで明かされるのはクロニカの正体、本当の願い、革命が成った真実。最後とばかりに明かされる、ライナスの仮面の奥底の本物の自分。

 

「俺は、そうしたい。だから好きにやるだけだ」

 

最初から矛盾していた、最初から間違っていた。でも心のままに歩いてきた、それは真実。だからこそここからも自由に。本当の願いと彼女の願いを乗せて。元の部分の熱さを取り戻し、迫る追手をぶっ飛ばし。また新たに今度は自分の意思で、旅を始めるのである。

 

記憶、嘘、真実、仮面。 誰もが仮面を被っているこの世界で。それでも真っ直ぐに泥臭くとも進む熱さが、心にのしかかってくるこの作品。突き刺してくるような面白さが好きな方は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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