さて、この世界において一番重要なもの、と聞いて画面の前の読者の皆様は何を連想されるであろうか。命、愛といったものを連想される方もおられるかもしれない。しかし、金という身も蓋もない答えを連想される方もおられるかもしれない。しかし、この連想の答えは各自の自由に委ねられているので、明確にこれ、というものはないだろう。しかし、やはりお金、というのは生きていくうえでどうにも重要なものなのは確かなのである。
それは現実世界においても、ファンタジー世界においても変わらぬと言える。それもそうであろう、文明がある世界であれば基本的にお金、という概念はあるのだから。
この作品の舞台における剣と魔法、そして迷宮と魔物があるファンタジー世界においても、お金は重要なものである。ダンジョン近くの街、唯一の武器屋の店主であるセイラ(表紙左)。彼女は然し、横暴な冒険者によって迫害され、略奪の鬱き目に遭っていた。何の因果か、この作品における冒険者は治外法権が適用される存在であり。冒険者、という単語から来るイメージの中でも時々ある傲慢と粗暴を体現したかのような存在だったのだ。
「そんな一ブロンズにもならないこと。時間の無駄ですよ」
唯一残された大切なものだった魔法石を奪われ、失意のうちに自死を選ぼうとするセイラ。彼女に声を掛ける存在が一人。ダンジョンで死した冒険者の復活を司る教会、この街唯一の境界のシスター、レイチェル(表紙右)である。
「金。それこそこの世の全てを支配し得る『力』です」
シスターにあるまじき台詞を吐き、セイラを貶めた冒険者、ゴルドルフの経済状況を聞いた彼女はセイラに取引を持ち掛け。嘘と策略を駆使する、本当に聖職者かと言わんばかりの方法で魔法石を取り戻し、ついでに有り金も命も巻き上げる。
「貴女馬鹿ですねえ」
しかし、セイラは許せぬと言いつつも、ゴルドルフを助ける道を選び、レイチェルはそんな彼女に興味を抱いて。一度で途切れる筈だった二人の関係は、奇妙な友情と言う形で続いていく事となる。
ある時はレイチェルがセイラを女神と偽って、ぼったくりの片棒を担がせようとしたり。またある時は、レイチェルに恋する勇者、ソーイとその偽物に振り回されて。
そんな中、突如として豹変し冷たくなったレイチェルは、冷徹に金を集め始める。その目的は家族を取り戻すため。家族の情報を人質に取られ、元は貴族であった自分の家を破滅させた冒険者、ユーリに操られ、柄にもない事を口にする。
彼女を助けたい、セイラはそう願い。全く以て積んだ状況から、幼馴染みの石屋の店主、ルークやゴルドルフまで巻き込んでユーリを逆にハメる為に動いていく。レイチェルから見て学んだ、詐欺の手口を以て。
「私はゴールドに関して冗談は言いません」
彼女に手助けされ、背を押され。舞台を整えられたレイチェルは自分の手で決着をつける。お金に関して嘘は言わぬ、彼女だからこその悪魔的な方法で以て。
どこかダークな世界観の中で、少女二人の何とも言えぬ関係が面白さを持っているこの作品。独特の世界観を楽しんでみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。