読書感想:青を欺く

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は嘘、というものについてどう思われているであろうか。嘘、というのは基本的にいけないものであり、人間は正直に生きるべきであると言えよう。しかし優しい嘘、という嘘があるのも確かである。そのようなものもあると考えれば、嘘と言うのは一概に悪いもの、とは言えないのかもしれない。ならば、嘘と言うのは使いよう次第であるのかもしれない。

 

 

ではこの作品、欺く、という単語が入っているこの作品はどんな作品であるのか。先に言ってしまえばこの作品は、アオハルの物語である。秘めた裏に剥き出しの感情が迸って交錯するお話なのである。

 

「私、知ってますよ? 先輩のこと、たっくさん♡」

 

日々目立たず、嘘で他人の仮面を被ってやり過ごす。ファミレスのバイトをソシャゲの課金につぎ込むだけ。空っぽな自分を嘘と言う仮面に隠し日々を過ごす少年、千太郎。彼にある日、声をかけてきたのは学校の後輩である雫(表紙)。彼の事は何でも知っている、と言わんばかりに個人情報を羅列され、バイト先の店長に叱られ咄嗟の嘘で乗り切っている所を映像に収められ弱みを握られ。彼は仕方なく、彼女がつくる「映画」に出演する事となる。

 

「ウソつきは『役者』の始まりですよ、先輩」

 

一カ月後に締め切りが迫るコンテストに出場する為、雫が求めたのは彼の嘘、もっと言うなれば嘘に説得力を持たせる為に即興で嘘に合わせて出来る演技力。クラスメイトである、隠れサバサバ系なはるかを演技の師匠として、野球部エースである鉄人を千太郎の一言で、脚本家にして。容赦なく撮影が幕を開ける。

 

当然彼は初心者、解釈一つを巡って空回りする事だってある。だが、鉄人が書いた脚本の解釈を知る為、嘘を吐く要領でその内面に潜り込んで。その隠された趣味である乙女趣味を解き明かして感激させ。一足飛びに吸収させられながら、撮影は進んでいく。

 

 

最初は巻き込まれただけだった、でも気が付けばその熱は。創作と言うものへの情熱は、空っぽな器を満たし始めていた。だがその道程は雫の撮影データ紛失を切っ掛けに暗礁に乗り上げる。彼女と言うエンジンを失った事で、その熱は少しずつ冷え始める。

 

「キミには『城原千太郎』というカードがあるはずなのに、どうしてそれを使わない?」

 

このままでは駄目だ、ならばもう一度雫と向き合わねばならない。本当の自分で。雫と知り合いだったバイト先の店長から教えられたのは、彼だけの武器。空っぽだった自分が最初から持っていた、自分自身と言う唯一無二の切り札。

 

「何度でも言います、先輩だけです」

 

 

仮面を外して雫と向き合って。そこで明かされるのは、小悪魔な仮面の裏に隠れていた本当。 嘘を自然に人助けに使っていた、本当は優しい千太郎をずっと見つめ続けてきた雫の本当の願い。それは剥き出しのエゴ。監督としては失格、一人の女の子として当たり前の思い。

 

「私も先輩を撮りたいっ!」

 

それは、優先させてはいけない筈の思い。だが、一度溢れた思いはもう止まらない。そしてそれは千太郎もまた。やりたい事とやるべき事が一致した時、聞こえてきたのは自分と言う世界の、心からの声。 重なったのなら、もう止まれない。今までの青は嘘。ならばその嘘を欺いて。ここからが本当、もう一度皆で。

 

「先輩は、もっと私に撮られたいですよね?」

 

 

そのアオハルは一つの結果を結んで。その先にまた、次の撮影が、アオハルが待っているのだ。

 

創作に関する熱さに、アオハルの熱さを絡めて。剥き出しの感情が木霊して、叫びたがっている心が叫んで。正に一本の、上質な映画を見たよう。そんな、心を打って差してくる面白さがあるのだ。

 

瑞々しくて若々しいアオハルに心打たれたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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