読書感想:電脳バニーとゲームモノ。

 

 さて、時に電脳世界というのはいつか現実に行ける世界となるのかもしれない。しかし今は、まだ簡単にはいけない世界。そんな世界と聞いて、画面の前の読者の皆様はどんな作品の世界を連想されるであろうか。グリッドマンの世界も言わば電脳世界、であるかもしれないし、古くはネットゴーストPIPOPA、更には有名どころで言えばロックマンエグゼ。特にロックマンエグゼシリーズは、往年のオタクの方々にとっては、馴染みの深い世界、であるかもしれない。

 

 

では、こんな前書きから察していただけたかと思うが。この作品はそんな、電脳世界を舞台にした物語であり、電脳世界で何でもありのゲームに挑むお話なのだ。

 

災厄の時代、人々は新天地を求め、機械仕掛けの匣の中に総てを移した。その名も「拡張都市パンドラ」。全ての夢と希望が叶う、電脳の世界に夢を見る世界。そんな世界で繰り広げられているのは「パンドラゲーム」。「NAV.bit」と呼ばれる「希望コンシェルジュ」、契約者の希望を叶えるコンシェルジュの立ち合いの元に、挑む者がそれぞれの「希望」をかけて行う、勝ち残るためには何でもありの勝者総取りのゲーム。

 

「―――何なんだよ、ここぉ・・・・・・」

 

そんなゲームの行われる街の路地裏、鳩の群れに埋もれる形で目覚めた少年。目覚めた彼には、自分の名前も今までの来歴も、全てが記憶喪失という形でなく。それどころか歩くだけで不幸な目に遭う始末。一先ず声をかけた女性警察官の教え通りに起動した「NAV.bit」のアプリ。そこから飛び出してきたのは、再起動された彼、名を皐月というらしい、そのコンシェルジュ、ツキウサギ(表紙)。一先ず今日の家と飯を、と願い。その願いがマッチングされ出会ったのは、登録者三百万人の大人気配信者、ミライ。彼女と追いかけっこを元にしたゲームでぶつかり合い、知恵と機転で何とか勝利をもぎ取り。一先ず彼女の家でお世話に、なることになる。

 

「―――終わるんですよ。この世界はもうまもなく、終了します」

 

彼女の家への移動中、自分だけが知覚できたのは世界のフリーズ。ツキウサギが語ったそれは、電脳世界であるこの世界の致命的なバグ。このままではこの世界は、まもなく終わるというもの。

 

更に、団欒中のカフェに現れたのはこの世界を運営する、「新世界運営委員会」の者達と、この世界きっての名家の令嬢、メイ。二人の事を「対応者」と呼び委員会の面々が迫る中、再び巻き起こるフリーズ。その中でメイと皐月、二人だけが動けた事で、今度はメイにより連れられて。彼女のプライベート空間で、正と負、二つの質量があるコインを使ったゲームに挑み、あっさり敗北してしまう。

 

一先ずミライの元に戻り、彼女と同居しているアプリデザイナー、ナギによる解析を受け。そこで分かったのは、皐月の記憶はどうもゲームで奪われたらしい、という事。そして彼の脳の奥深くには、所有者に不運を与える呪いのアプリが根付いており、それが「エルピスコード」と呼ばれるものという事。 更にその場に現れた委員会の面々についていくことになり、支部長であるDDと名乗る男により、更なる真実を告げられる。

 

それは、エルピスコードとは世界の設計図、五つに分かれたものであり、それぞれ「不運」、「幸運」、「全知」、「生命」、「権威」の機能がある。そして皐月はどうもこのコードを記憶を失う前にゲームで手に入れたらしい、という事。 記憶を取引材料にエルピスコードを集めてくれないか、と頼まれ。まずはメイの持つ「幸運」の回収に挑む戦いへ。

 

折しも、ミライも彼女と戦いユメを奪われてしまっている。ならば、取り戻さなくてはいけぬ。でもどうやって? 最強の幸運相手にどう戦う?

 

「これ以上後ろに引けないだけだよ」

 

「―――賭けてもいい」

 

だけど引けぬ理由がある、ならば戦う、それだけ。武器となるのは己の「不運」。不運と幸運、天秤の上で釣り合わせる、その場限りの切り札で戦った先、全てが始まるのだ。

 

電脳世界で頭脳バトル、そして記憶の謎に迫る、サイバーパンクな面白さに溢れるこの作品。サイバーパンクものが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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