読書感想:くだものナイフと傷だらけのリンゴ1 モテすぎる彼女は、なぜか僕とだけお酒を飲む

 

 さて、高校生と大学生の違いであり、大学生になれば一応大丈夫なもの、と言われて画面の前の読者の皆様が思い浮かべるのは何であろうか。様々な答えがあるかもしれないが、その答えの一つとして「飲酒」、という言葉をあげられる読者様はどれだけおられるのだろうか。 お酒が飲める二十歳になるのは、基本的には大学生の時分であろう。ではこの作品はどんな作品なのかと言うとであるが。お酒ががっつり絡んでくる、大学生特有のラブコメなのである。

 

 

そして、この作品のタイトルを見てほしい。「くだものナイフと傷だらけのリンゴ」、それは一種の共生関係、共存関係、共犯関係、であるらしい。この三つのワードから感じられるのは、どこかほろ苦いもの、と思われた方、それは正解なのである。この作品は主人公、ヒロイン、ともにほろ苦い過去を抱えていて、共に恋を諦めている。そんな所から一歩踏み出していく物語なのだ。

 

「こんな蔑ろにされたの初めてっ! すごいっ! 全然気ぃ遣われない!」

 

とある大学のサークル、「酒友会」。基本的には酒を飲む、ただひたすらにそんな活動をしているサークル。そんなサークルに属する、基本的に目が死んでいる女性関係にトラウマ持ちの内向的な青年、朝人。このサークルにひょんな事から参加したのは、学内でモテすぎる女性、麻衣(表紙)。 普段は持て囃されちやほやされる彼女は、しかしぞんざいさに飢えており。「酒友会」で雑に扱われた事で、逆に感動してしまい。彼女も結果的に、「酒友会」に加わる事となる。

 

「ピザ! ピザ食べたいの!」

 

彼女も加え、皆で酒を飲んだり。大学祭でバーを運営してみたり。とにかく酒が絡む活動をする中で。先輩である美晴や友に振り回されたりする中、酒癖が悪い麻衣の世話を、年が同じ朝人が引き受ける事となり。彼女に服にリバースされたり、と面倒事に時々巻き込まれたり、酒癖の悪い彼女の素をこれでもかと見せつけられたり。その最中、麻衣の妹と遭遇したことで、二人の関係は唐突に動き出していく。お互いがお互いの過去に迫っていく。

 

朝人の過去、女性不信の過去。そのきっかけはささいなもの。しかし麻衣が抱えていた、人間不信のその理由。それはよほど重いもの。 不可抗力とは言え傷つけてしまったからこそ、また傷つけてしまうのでは、と怯えるもの。

 

「そんなことよりも、今はこうやって、私の前で泣いてくれた貴方を抱きしめていたいの」

 

だけど、そんなのは関係ない。過去も未来も、知りたいのはそんなものじゃない。知りたいのは今、目の前にいるあなたの事。ただそれだけ、と。手を伸ばし、臆病から一歩踏み出し、抱きしめる。傷つけるのではなく受け止めるのだ。

 

傷ついたもの同士、どこかほろ苦い模様が堪らないこの作品。ビターなラブコメが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。