読書感想:サークルで一番可愛い大学の後輩 2.消極先輩と、積極後輩との花火大会

 

 さて、前巻を読まれた読者様であれば智貴と美園、先輩と後輩である二人の恋人未満のもどかしい関係、というのはもうご存じであろう。高校生のように燃え上がるのではなく、大学生だからこそのしっとりとした感覚で。だがしかし、このもどかしさは変わらない。そこは高校生であっても大学生であっても、変わらぬもの。そのもどかしさのままに、それでも少しずつ変わっていくのが今巻なのである。

 

 

 

「とにかく、今年の花火大会はダメなんです」

 

美園が泊っていった日から一夜明け、まだ智貴の心の中からは熱が冷めやらぬ中。バイト先で知らされたのは、近々花火大会があると言うもの。それは美園を誘うには格好の口実となるもので、それに誘う為に、智貴はお盆中ずっとバイトに出るのを条件に、花火大会の日の休みをもぎとってみせる。

 

「付き合ってもいないのにそんなこと出来ませんよ」

 

だがしかし、誘うまでがもどかしい。美園の気持ちに未だ気付けぬ。気付けぬままに、もし誘ってフラれてしまったのならどうしようと尻込みしてしまう。それは未だ拭えぬヘタレ故に。そう簡単に人間の根底の部分は変えられたりはしない。

 

「この味をちゃんと覚えておこうと思ったら、つい、そんな顔になっちゃったかもしれません」

 

「そういったところも素敵だと思いますから」

 

「私の頭を撫でで欲しいんです」

 

 だがしかし、美園は今日も変わらない。変わらず行為を伝えてくる。ぐいぐいと彼へと距離を詰めてくる。彼の手料理の味を覚えておこうと頑張ったり、時にご褒美をおねだりしたり。可愛らしく、時に愛らしく。そんな彼女の優しさが、静かな思いが。彼の心の中へと沁み込んでいく。

 

大学生らしい、高校生の時とは違う期末テストの勉強。美園の帰省という一時の別離を経てからの、二人で見上げるお祭りの花火。そして、大学生らしい車で向かう、サークル旅行。

 

大学生らしい距離感で、その年頃らしいイベントを積み重ねて。一つ、また一つと心は近づいていく。勇気を出して踏み出す準備は整っていく。

 

「いるよ。好きな子」

 

「僕と付き合ってほしい」

 

 彼女に不安な顔はさせたくない。直感的に心で理解する踏み出すタイミング。例えヘタレであっても、このタイミングだけは見逃してはいけぬ。人生で一番の勇気を出して、智貴は今、確かに一歩踏み出して見せる。伝えるのは思いを伝える真っ直ぐな言葉。それが届かぬ訳はない。だからこそ二人が結ばれるのは必然。彼等を心配する誰もが望んだ景色なのだから。

 

だが結ばれたから、といって終わりではない筈だ。恋人同士として初めて迎える文化祭。彼等の成果の結晶まで見届けてこそ、この作品は完成するはずだから。

 

更にラブコメとしてより深煎りされていく今巻。前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

サークルで一番可愛い大学の後輩 2.消極先輩と、積極後輩との花火大会 (ファンタジア文庫) | 水棲虫, maruma(まるま) |本 | 通販 | Amazon