さて、勇者と魔王の戦いと言うのはファンタジー世界における花形、王道の展開であるが。勇者と魔王の戦いが完結したとして、その後もその世界は続いていく、というのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。では完結した先、勇者はどうしているのだろうか。 例えば危険視されて闇討ちされたりすることもあるかもしれないし、何かの地位を得て、新たな舞台での戦いに挑んでいるのかもしれない。勇者とて、一人の人間。戦いの先にその人生が続いていくのだから。
ではこの作品ではどうなのか。この作品の主人公、勇者のアレス(表紙右から二人目)。僧侶のマリア(表紙右端)、魔術師のソロン(表紙左から二人目)、剣聖のレオン(表紙左端)と共に旅をし、魔王との戦いに挑んだ彼。
「でも、ここには戻りません。だから、貴方は好きな人と結婚してください」
だけど、彼は戻らなかった。四年の旅の後、魔王の討伐には成功するも、彼は魔王と相討ちとなり生きて帰らず。 更に四年後、落ち着きを取り戻した王国は亡き勇者の偉業を讃える為、その偉業を文献に編纂する事業を立ち上げる。
「あいつは友だったよ」
「私にとっても彼は勇者でした」
「あいつは勇者などではない。ただの馬鹿だ」
市井の人達の、外から見た勇者の印象。ファルム学院と言う当時は貴族の子弟に箔をつける為だけの学校で出会った、仲間達から見た、アレスの印象。
彼は、決して最初から勇者、という訳ではなかった。 むしろ彼は、凡庸な能力しか持たず、寧ろ人より才能を身につけるのが遅いくらいには、万事才能がない。 それでも、勇者と言う一念を、もはや執念のような勢いで、アレスやマリア、ソロン達に食らいつき、教えを請い。泥臭くともこつこつと、一つずつ小さな奇跡を積み重ねて。彼は勇者となっていったのである。
さて、ここまで聞いて皆様、何か疑問に思われただろうか? 勇者の彼、その中身は凡庸な普通の少年。 何故彼は勇者となったのか、そして死ななければならなかったのか?
「わたしが勇者アレスを殺しました」
「僕がアレスを殺したんだ」
さて、其処に隠れているのは何か。それは「勇者アレス」の真実。二人の下手人による死。しかしそれは、不埒な思惑などではなく。勇者は、ただ、二人の人間に、世界に殺された、といっていいようなものなのだ。
では、この作品における勇者の物語とは何なのか? 勇者とは一体、誰なのか?
「約束を果たしに来ました」
その答えは是非、皆様の眼で見届けてほしい。そして、この作品に込められている人々の思いに触れてほしい次第である。
ほんのりとしたミステリーの中、人の思いが溢れて温かいこの作品。心を温めたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。