読書感想:忘れられ師の英雄譚1 聖勇女パーティーに優しき追放をされた男は、記憶に残らずとも彼女達を救う

 

 さて、人間が本当に死ぬのはいつであるのか、という問いかけに対して、忘れられた時さと答えた人がいた訳であるが。実際、画面の前の読者の皆様は誰かが亡くなった後、その顔や声を忘れてしまった事はあるであろうか。忘れてしまう、のもまぁ仕方のない事なのかもしれない。ずっと忘れないよ、と誓ったりしてみても。記憶の風化、というのは中々に避けられぬものであるのだから。

 

 

ではこの作品の主人公、舞台となる異世界からみれば来訪者である転移者、カズト(表紙中央)はどうなのか。 彼は異世界への転移者、のよくあるパターンとして神様から強力なスキルを貰っている訳で。しかし力だけではなく、呪いも受けてしまっている、というのが中々にないパターンかもしれない。

 

「今まで、ありがとな」

 

異世界に転移し、苦節の果てにSランクパーティの一員となり、魔王軍と激突を繰り広げ。しかし最終決戦を前に、彼は追放されてしまう。しかしこれはタイトルにもある通り、「優しき追放」なのだ。その理由とは、生きて帰りたいと思える理由になって欲しいから、だから絶対に生き延びてもらう為に待っていて欲しい、というもの。それを受け入れ、彼は追放される事を選ぶ。

 

 

 が、しかし。それは不味すぎる一手であった。仲間を気付かぬうちに強化でき、仲間の力を一度見れば模倣できる絆の女神の加護の力。しかし呪いの方が面倒なもの。元の世界との繋がりが途切れる、のはまぁいい。しかしもう一つの呪い、パーティーから抜けて視界から消えた途端、仲間から全部記憶が消える、という方が強制的に発動してしまい。彼は最初からいないものとなり。この世界の勇者、ロミナ(表紙左)とその仲間達が魔王を討伐する中、その事実も絆も消え去り、普通の冒険者に戻ったのだ。

 

 

しかし、決戦から半年後。かつての仲間である古龍術を使う賢者、ルッテ(表紙右)が出した依頼を見つけ。どう見ても自分を探している、という依頼を受け彼女にその実力を見定められ。彼女に連れられ王都へ向かい、かつての仲間達、そしてロミナと再会を果たす。

 

「世界一諦めの悪い、Cランクの冒険者だ」

 

そこで知るのは、ロミナが魔王の死に際の呪いを受けてしまい余命いくばくもない、という事。その解呪に必要なのは、この世に四人しかいない、神に近い者が持つ宝具。ルッテのかつての師匠であり、今は絶縁した相手である最古龍ディアが持つその方具を借り受ける為、カズトは一人でも行くことを選び。結果的にルッテ達もついてくる事となり、パーティーではないがまた彼女達と旅が始まる。

 

何故、そうまでするのか。助けたとて、また忘れられるだけ。だけどそれでも。今、彼女を死なせたくないから。だからこそ命も賭けられる、己の全てを賭けられる。途上、仲間達が記憶を取り戻す展開もあったりする中、カズトは只一つの目的の為必死に駆け抜けていくのである。

 

そこにあるのは純な温かさ、無償の優しさなのだ。

 

何処か優しい、真っ直ぐな感情が面白いこの作品。心を温めたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。